冬川に帰る者
日に日に、寒さが骨身に染みるようになってきていた。
朝の空気は鋭く、息を吐くたびに白く曇る。
正直なところ――
……魚を見に行くの、そろそろ厳しいな
そう思いながらも、体は自然と川へ向かっていた。梁漁の仕掛けがどうなっているか、それを確認しないわけにはいかない。
いつものように川岸へ降り、仕掛けに目を向けた瞬間――エドワルドは、言葉を失った。
「……ん?」
そこにいたのは、今まで見てきた魚とは明らかに違う影。
「……?」
大きい。太い。何より、存在感がまるで違う。
「――うお!!?」
思わず声が裏返った。
仕掛けの中で、銀色の巨体が数匹、ゆっくりと身をくねらせている。
「……これは……」
一瞬、記憶を探る。
(そうだ……あの絵……)
「――鮭だ!!」
確信と同時に、胸が高鳴る。
絵で見た姿より、遥かに迫力がある。
これまで獲れていた魚など、小魚に見えてしまうほどだ。
「な、なんだどうした?」
背後から慌てた声が聞こえた。
振り返ると、以前、絵を見せてくれたあの男が息を切らして立っていた。
「お前……これ見ろ!!」
男は仕掛けを覗き込み――次の瞬間、目を見開いた。
「……うお!?これ!?まさか……」
「鮭だ。記録にあった魚だ」
「本物……か……」
男は、言葉を失ったまま立ち尽くす。
絵で知ってはいても、実物を見るのは初めてなのだ。
「見てる場合じゃない。上げるぞ!」
二人は我に返り、すぐに動き出した。
網を補助に使い、声を掛け合いながら、なんとか川岸へ引き上げる。水を弾く銀色の体躯は、間近で見ると圧倒的だった。
「……でかすぎだろ……」
「……ああ」
しばし、呆然と立ち尽くす。
だが――
「……〆ないと」
現実に引き戻される。問題は、どう処理するか、だ。
「切るか?」
「いや……この量だ。保存が先だな」
自然と、二人の視線が同じ方向へ向く。
「……燻すか」
「ああ、それが一番だ」
判断は早かった。
男は薪を集め、エドワルドは燻し台の準備に取り掛かる。寒空の下、二人は無言で、しかし手際よく動いた。
川は静かに流れ続けている。
何年も姿を見せなかった魚が、今、確かにここへ戻ってきた。それは偶然か、それとも必然か――
少なくとも、この川が、まだ生きている証であることだけは間違いなかった。
立ち上る煙の向こうで、銀色の体が、ゆっくりと冬の空気に包まれていった。




