川辺で受け継がれた知恵
あれから、エドワルドはほぼ毎日川へ通っていた。
梁漁の仕掛けは、期待を裏切らなかった。
朝に行けば、必ず数匹は魚が入っている。
……安定しているな。
それ自体は良い。だが――
「……流石に、飽きるな」
小さくため息をつく。
焼く。焼く。また焼く。
最初のうちは新鮮だった味も、毎日となると感動は薄れる。
贅沢な話だとは分かっているが、人とはそういうものだ。
「保存、か……」
そこで思いついたのが、干し魚だった。
魚を開き、内臓を取り、川風に当てて干す。
作業は単純だが、量が増えるとそれなりに手間がかかる。
川沿いで魚を捌き、木枠に並べていると――
「……坊ちゃんかい?」
不意に、背後から声がした。
振り返ると、見覚えのない男が立っていた。
年の頃は三十代後半ほど。
漁師というより、川仕事を請け負っていそうな風体だ。
「魚を干してるのか?」
「まあ、保存用に」
そう答えると、男は顎に手を当てて少し考え込む。
「うちの曾祖父さんがな……絵を残してるんだが」
「絵?」
思わず聞き返す。
「魚の保存方法らしい。干すだけじゃなくて……煙で燻すようなやつだ」
……燻製か?
エドワルドの脳裏に、前世の知識が一瞬だけよぎる。
「見せてくれるのか?」
「ああ。家は近い」
しばらくして見せられた一枚の絵には、確かに描かれていた。
開いた魚を吊るし、その下で煙を立てる様子。
「……なるほど」
「曾祖父さんの話じゃ、肉もそうやって保存したらしい」
確かに……
肉を燻す。聞き覚えはある。なら、魚もできるはずだ。
理屈は通っている。
「やってみよう」
そう告げると、男は少し驚いた顔をした。
簡易的な燻し台を組み、湿った木を使って煙を出す。
魚を吊るし、火を強くしすぎないよう調整する。
「……待つ、か」
すぐに結果は出ない。だが、焦る理由もなかった。数時間後、魚はほんのりと色づき、独特の香りをまとっていた。
「……悪くない」
一口齧る。
「……これは、保存食として優秀だな」
干し魚よりも匂いが抑えられ、味も締まっている。
「成功だ」
魚は、もう一人では持て余す量になっていた。
「これ、お礼だ」
そう言って、燻した魚と干し魚を男に渡す。
「え?いいのか?」
「十分、助けられた」
男は少し戸惑いながらも、深く頭を下げた。
「曾祖父さんも、きっと喜ぶ」
川は、今日も静かに流れている。
その流れの中で――
失われかけていた知恵が、確かに一つ、息を吹き返していた。
エドワルドは、煙の向こうに揺れる川面を見つめながら、次に活かす算段を静かに巡らせていた。




