残された流れに賭ける
ダメ元――
その言葉が、これほどしっくり来る試みもないだろう。
「……まあ、やらない理由も無いか」
エドワルドは、積み上げた細木を前にそう呟いた。
材料はある。
時間も、今はある。
そして、失敗しても失うものはほとんどない。
(捕れなきゃ捕れないで、それで終わりだ)
それが分かるだけでも前進だ。
梁漁の仕掛けは、想像以上に手間がかかった。
細い枝を揃え、流れに逆らわない角度で組む。
隙間は水が抜ける程度、だが魚は通さない幅。
「……難しいな、これ」
書庫の図を何度も思い出しながら、試行錯誤を重ねる。
強く締めすぎれば、水圧で壊れる。
緩すぎれば、魚が抜ける。
(理屈は単純なんだがな)
結局、完全な正解は分からない。
なら――
「実際に使って、壊れ方を見るしかないか」
そう割り切った。
出来上がった仕掛けは、同じ大きさのものが五枚。一人で扱える限界のサイズだ。
「これ以上大きいと、設置も回収も無理だな」
運ぶのも一苦労だった。手引き車に載せ、軋む音を立てながら川へ向かう。
川は、いつもと変わらぬ流れだった。
澄んだ水。一定の速さ。
……昔は、ここを魚が遡った?
そう思うと、不思議な感覚になる。
川岸で仕掛けを立てかけ、固定用の杭を打つ。
流されないよう、斜めに、深く。
「……こう、か?」
水に入れた瞬間、強い力が腕に伝わった。
「おお……」
想像以上だ。水の重さを、初めて実感する。
(なるほど。だから現地組みじゃ無理なんだな)
何とか一枚目を設置し、位置を調整する。
流れを完全に止めず、誘導するように。
「……これで、魚が来れば、だが」
二枚目、三枚目と、少しずつ間隔を空けて設置していく。
全て終わる頃には、腕がじんと痺れていた。
「ふぅ……」
川岸に腰を下ろし、流れを眺める。
梁漁の良いところは、張り付く必要がない点だ。罠は罠として、そこに在るだけで機能する。
……一日中見張る必要はない。
それは大きい。人手も時間も、最小限で済む。
「さて……」
エドワルドは立ち上がり、仕掛けをもう一度確認した。
壊れていない。流されてもいない。
(少なくとも、設置は成功だな)
捕れるかどうかは、別問題だ。
魚がいなければ、意味はない。だが、いれば――
「……万々歳、だ」
小さく笑って、肩をすくめる。
期待しすぎない。失望もしない。
ただ、結果を見る。
明日、来てみるか。
何も無ければ、設置場所を変える。反応があれば、改善する。
それだけだ。
川の音を背に、エドワルドは歩き出した。
未来を知っているつもりで、それでも、まだ分からないことだらけだ。
だからこそ――こうして、一つずつ確かめていくしかない。
残された流れに、ほんの少しの期待を託して。




