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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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消えた魚の記憶

鮭――。


書庫で見つけたあの記述が、どうにも頭から離れなかった。


……正直、記憶にない。


未来の記憶にも、鮭という魚が領内で話題になった覚えはない。

だが、記録に残っている以上、かつては確かに存在したはずだ。


「……古いな」


日付を見て、そう呟く。

かなり前の記録だ。ここ最近のものではない。


他の魚は市場で見かけるのに……


なら、聞くしかない。


エドワルドは、そのまま市場へ向かった。


魚を扱っている店の前で声をかける。


「こんにちは」


「おっ、坊ちゃんか。どうした?」


顔馴染みの商人が、手を止めてこちらを見る。


「魚のことで聞きたいんだけど」


「魚? 干し魚か?」


「いや……鮭って魚」


その瞬間、商人はきょとんとした顔になった。


「……鮭? 聞いたことないなぁ」


やっぱりか。


「そうなんだ。記録にはあるんだけど」


商人は首を捻り、少し考えた後、奥に向かって声を張り上げた。


「おーい、じっちゃま!坊ちゃんが“鮭”って魚のこと聞いてるんだが、知ってるか?」


しばらくして、店の奥から年老いた男がゆっくり出てきた。


「……懐かしいのぅ」


その一言で、空気が変わった。


「昔はな、確かに捕れておった」


「本当ですか?」


「うむ。ただな……だんだん捕れなくなってなぁ」


老人は遠い目をする。


「数が減って、捕る漁師も減って……そのうち誰もやらなくなって、獲り方も今じゃ分からん」


……なるほど。


「つまり……捕れなくなった、と」


「そういうこった」


エドワルドは深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


市場を離れながら、胸の奥に重たいものが残る。


獲りすぎた……ってことか。


一時は十分にいた。

だからこそ、捕り続けた。

そして、減り――消えた。


希望は……薄いな。


しかも、獲り方も分からない。

技術も、知識も、継承されていない。


それでも……


諦めきれず、書庫で見たあの記述が脳裏に浮かぶ。


「もう一度……確認するか」


自然は、回復することもある。

時間がかかっても、条件が揃えば。


エドワルドは、もう一度あの古い記録を読み返す決意を固めた。


そこに――

まだ誰も気づいていない「何か」が残っているかもしれないのだから。

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