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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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静かに芽吹く不確定要素

貰った不断草とやらを、試しに植えてみるか。


エドワルドは、手の中の小さな種袋を眺めながら、そんなことを考えていた。

商人から受け取った時は流れで受け取ったが、改めて考えるとこれは中々に重要だ。


葉物野菜。

言葉にすれば簡単だが、領内で安定して手に入る葉物は意外と少ない。

季節に左右され、天候に左右され、保存も難しい。


だからこそ、価値がある。


まずは、書庫だ。



書庫の一角、植物図鑑の棚から何冊か引き抜き、机に並べる。

ページを捲りながら、似た名前や特徴を探していく。


「不断草……」


しばらくして、それらしい記述を見つけた。


生育が早い。

暑さ寒さに比較的強い。

葉を摘んでも株が残り、繰り返し収穫が可能。


「……なるほど」


葉を刈り取って終わりではない。

根を残し、また伸ばす。


これは、畑の“隙間”に向いているな。


小麦と小麦の間。

収穫後、次の播種までの空白期間。

あるいは、家庭菜園的に家の裏。


保存は効かないが、回転が速い。


冬場に乾燥パスタや硬豆があるとはいえ、葉物があるかないかで食卓の満足度は大きく変わる。栄養面でも、無視できない。


「……よし」


育ててみる価値は、十分にある。



畑の一角。

日当たりが良く、水はけも極端に悪くない場所を選び、区画を小さく切る。


今回は実験だ。

広げるのは、結果を見てからでいい。


土を軽く耕し、溝を作り、種を撒く。

上から薄く土を被せ、軽く押さえる。


本当に、二、三ヶ月で葉が採れるなら……


今年の終わりには、結果が出る。


作業を終え、水をやりながら、エドワルドは空を見上げた。


雲の流れは穏やかだ。今年も、天候は大きく荒れていない。


……今年も、豊作。


その事実が、胸の奥に重く残っている。



小麦。収穫量は、去年より十八%増。


乾燥パスタの備蓄量も、確実に増えている。

加工場は増築され、人も増え、回り始めている。


数字だけを見れば、何も問題はない。

むしろ、理想的ですらある。


問題があるとすれば……


未来の記憶。


三年続く豊作。その後に来る、暴落。

そして、不作。


ズレている?


自分が知っている流れと、確実にズレが生じている。それは良いことかもしれないし、悪いことかもしれない。


今年の豊作が、前倒しになっただけなのか?

それとも、全体が一段階早まっているのか?


考え始めると、きりがない。


領内だけの話だ。外まで波及するほどの影響じゃない


そう自分に言い聞かせる。

だが、完全に不安が消えるわけではなかった。


過去に囚われすぎれば、判断を誤る。

だが、無視すれば、同じ結末を迎える可能性がある。


厄介だな……



畑から戻り、乾燥パスタの備蓄状況をまとめた帳面に目を通す。


想定通り。いや、想定以上だ。


備蓄は、問題ない。じゃじゃ芋もある。

硬豆も、次は改善できる。

セキシャク鳥も、豚も、増えている。


一つ一つを確認していくと、確かに土台は出来てきている。


備えは、確実に増えている。


それでも、未来が完全に安心できるわけではない。だが――


だからと言って、立ち止まる理由にはならない。


不安があるなら、手を増やす。

選択肢を増やす。逃げ道を作る。


不断草も、その一つだ。


「……焦るな」


小さく呟く。


自分は、王でも神でもない。

すべてを制御することは出来ない。


出来るのは、目の前の一手を積み重ねることだけだ。



夕方、再び畑に目を向ける。


まだ何も変わらない。芽も出ていない。


だが、確かに種は蒔いた。


変化は、いつも遅れてやってくる。


数字に表れる前に。噂になる前に。

問題になる前に。


静かに、土の中で。


エドワルドは、畑から屋敷へ戻りながら、心を整えた。


今年が豊作だったこと。

未来がズレ始めていること。


どちらも、事実だ。なら、やることは一つ。


備える。増やす。分散する。


そして、必要以上に恐れない。


「……大丈夫だ」


誰に聞かせるでもなく、そう言った。


不断草の芽が出る頃には、また一つ、考える材料が増えるだろう。

それでいい。


不確定要素は、脅威にもなるが――

味方にも、なり得るのだから。


エドワルドは、静かに次の日の予定を思い浮かべながら、灯りの入った屋敷へと足を向けた。

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