収穫の秋
空気が変わった。
朝、外に出ると、夏の名残はほとんど感じられない。
乾いた風と、少し高くなった空。
間違いなく、収穫の季節だ。
「……来たな」
エドワルドは畑を見渡し、そう呟いた。
今年のメインは小麦。
どの畑も、穂がよく実っている。
色も悪くない。倒伏も少ない。
硬豆も収穫できる状態だが、順番は後だ。
まずは小麦。
これは領地全体の仕事になる。
収穫は、総出になる。
農家だけでなく、手の空いている者は皆、畑に出る。
鎌を手に取り、列を作り、ひたすら刈る。
一日で終わる仕事じゃない。
天候を見ながら、数日、あるいはそれ以上かかる。
「今年はどうだろうな」
そんな声が、あちこちから聞こえてくる。
収穫量は、まだ誰にも分からない。
だが、見た目は悪くない。
極端に良くもなさそうだが、悪くもなさそうだ。
……普通、だな。
それでいい、とエドワルドは思う。
この年は、無理をしていない。
水路も農具も、少しずつ整えた。
作付けも、冒険はしていない。
だからこそ、結果も「普通」になるはずだ。
刈られていく小麦を見ながら、エドワルドは静かに考える。
大豊作ではないかもしれない。
だが、凶作でもない。
「普通に取れる」
それが、どれだけ大事なことか。
極端な年は、必ず歪みを生む。
余っても、足りなくても、どこかに無理が出る。
今年は、それがない。
刈り取られた束が、少しずつ積み上がっていく。
畑の色が、黄金から土の色へと変わっていく。
「終わったら、次は硬豆だな」
誰かが言うと、別の誰かが頷いた。
「順番通りだな」
その言葉に、エドワルドは小さく笑った。
収穫は、まだ途中だ。
数字が出るのは、刈り終わり、乾燥させ、量を測ってから。
だが――
この光景を見ているだけで、分かることがある。
慌てていない。
誰も、苛立っていない。
無理な指示も、怒号もない。
「……いい収穫だな」
それは、量の話だけではなかった。
刈り終わる日が、楽しみだった。
結果を知るのが、怖くない。
それだけで、この秋は、十分に価値がある。




