余白が生むもの
少しずつ引き継ぎを進めて、数日が経った。
まだ完全ではない。
正直に言えば、任せきりには程遠い。
だが――それで充分だった。
「分からないことがあったら、すぐ聞いてください」
「気づいたことがあれば、遠慮なく言ってもらえると助かります」
そう伝えてある。
二人は、最初こそ遠慮がちだったが、今では作業の合間に声を掛けてくるようになった。
餌の量、水の流れ、土の具合。
小さな疑問を、その場で確認する。
それだけで、十分に回っている。
(……これでいい)
エドワルドは、少し離れた場所から作業の様子を見ながら、そう感じていた。
◇
時間が、できた。
ほんのわずかだが、確かな余裕。
今までは、目の前の作業を終わらせることで精一杯だった。
考える時間も、振り返る時間も、次の一手を探す余裕もなかった。
だが今は――
視線が、自然と外へ向く。
(そういえば……)
父に渡した、じゃじゃ芋の話。
あれから、どうなったのか。
ふと思い出した矢先、屋敷で聞いた話が耳に入った。
「放棄されていた農地を、手入れし直すそうです」
「じゃじゃ芋の作付面積を、広げる方針だとか」
思わず、足を止めた。
(やっぱりな)
手が回らなかったから、できなかった。
余裕がなかったから、後回しにしていた。
それが、少し整っただけで――
動き出す。
作物そのものが増えるだけじゃない。
荒れていた土地が戻り、働き口が生まれ、流れが変わる。
(これも……余裕、か)
◇
自分のところも同じだった。
一人で抱えていた頃は、広げるどころか維持で精一杯だった。
だが、人に任せ、時間が生まれた途端、考えが先へ伸びる。
父も、同じなのだろう。
「余裕が出来てこそ、手が回る」
ぽつりと、独り言のように呟く。
未来を変えるために、何か特別なことをしたわけじゃない。
ただ、少しずつ整えて、余白を作っただけだ。
それでも――
止まっていた歯車は、確かに動き始めている。
エドワルドは、遠くの畑を見渡した。
今はまだ、小さな変化。
だが、この余白があれば、次を考えられる。
(……次は、何に手を伸ばす?)
その問いを胸に、エドワルドはゆっくりと歩き出した。




