名もなき募集
それなら――早速、動こう。
エドワルドは、机に向かいながらそう思った。
父から許可は出た。形も決まった。
あとは、やるだけだ。
とはいえ、大げさなことは出来ない。
王都に触れを出すわけでもないし、正式な役職を与える話でもない。
(まずは、一人でいい)
一人来れば、全然違う。
二人来れば、回り始める。
三人来たら――考える余裕が生まれる。
「……欲張るな」
自分に言い聞かせ、紙を一枚取り出す。
◇
書く内容は、極力シンプルにした。
・家畜(セキシャク鳥・豚)の世話
・肥料作りの補助
・畑仕事の手伝い
給金は最低限。
だが、学べることがある。
経験が残る。
(盛らない。誤魔化さない)
出来ないことは出来ないと書く。
楽だとも、儲かるとも書かない。
最後に、一文だけ付け足した。
「続けられる人、歓迎」
それだけだ。
◇
張り紙は、村の掲示板と、納屋の壁。
農家の人が集まりやすい場所を選んだ。
張り終えた瞬間、妙な緊張が走る。
(……誰も来なかったら)
一瞬、そんな考えがよぎる。
だが、すぐに首を振った。
来なければ、それも結果だ。
その時は、やり方を変えればいい。
急ぐな。積み上げろ。
それは、これまで自分がやってきたことと同じだ。
◇
その日の夕方。
畑の見回りを終え、セキシャク鳥の囲いを確認していると、背後から声がした。
「坊ちゃん……いや、エドワルド様」
振り返ると、見覚えのある顔だった。
以前、肥料作りを手伝ってくれた農家の男だ。
まだ若い。だが、目が落ち着いている。
「張り紙、見ました」
心臓が、少しだけ跳ねた。
「……はい」
「すぐにって話じゃなくていいんですが」
男は、少しだけ言いづらそうに続ける。
「うちの弟がな、今年で畑を離れようかって言ってまして、仕事が無いわけじゃないが……この先が見えない、と」
エドワルドは、黙って聞いた。
「もし、話を聞いてもらえるなら、一度、連れて来てもいいですか?」
(……もう、届いてる)
まだ始めたばかりだ。正式な募集ですらない。
それでも――
「はい」
エドワルドは、はっきりと答えた。
「一度、話しましょう」
男は、ほっとしたように頭を下げた。
「ありがとうございます」
◇
日が落ち、屋敷へ戻る道すがら、エドワルドは空を見上げた。
大きな変化じゃない。
劇的な出来事でもない。
だが――
(動いたな)
紙一枚。一行の言葉。
それだけで、人が一人、考え始めた。
未来を変えるのは、いつもこういうものだ。
小さくて静かで気づかれにくい。
エドワルドは、歩みを止めずに進む。
一人でもいい。集まれば、道になる。
それを、もう知っているから。




