言葉を選ぶ前に
執務室の前で、エドワルドは一度立ち止まった。
扉の向こうからは、紙をめくる音が聞こえる。
いつも通りの、父の仕事の音だ。
(さて……どう切り出すか)
頭の中で、何通りも言い方を並べてみる。
「勝手に始めてしまって」
「手が回らなくなってきて」
「人手が欲しくて」
――どれも、言い訳に聞こえそうだ。
父は、理を重んじる。結果も、過程も、どちらも見る人だ。
中途半端な言葉は、逆に突かれる。
(……言い繕っても、意味はないか)
エドワルドは、小さく息を吐いた。
今までやってきたことを思い返す。
セキシャク鳥。
豚。
豆。
畑。
肥料。
観察と記録。
どれも、遊びではない。
だが、許可を一つ一つ取って進めてきたわけでもない。
(それは、事実だ)
だからこそ――隠さず、誤魔化さず、話すしかない。
「……考えても、仕方ないな」
呟いて、扉をノックする。
「入れ」
短い返事。
エドワルドは、背筋を伸ばし、執務室へ入った。
父は書類から顔を上げ、こちらを見る。
「どうした?」
一瞬、言葉が喉で詰まる。
だが、ここで躊躇すれば、余計に拗れる。
「父上」
エドワルドは、正面から言った。
「俺が始めた飼育と畑の管理ですが……そろそろ、一人では回らなくなってきました」
父の眉が、わずかに動く。
「続けろ」
「増えること自体は、順調です。ですが、手が足りません」
言い訳は、しない。
「農家の方が手伝ってくれていますが、善意に頼る形です。このままでは、どこかで歪みが出ます」
父は、黙って聞いている。
「ですので……人手が必要だと判断しました」
静かな沈黙。
エドワルドは、覚悟を決めて続けた。
「勝手に始めたことだと言われれば、その通りです。ですが、途中で投げる気はありません」
視線を逸らさない。
「責任を、持ちたいです」
父は、しばらくエドワルドを見つめていた。
やがて、ゆっくりと口を開く。
「……珍しいな」
「え?」
「お前が、“困っている”と言いに来るのは」
それだけ言って、父は少しだけ表情を緩めた。
「続きは、考えながら話そう。今はまず、状況を整理する」
それは、拒否ではなかった。
むしろ――
受け止めるための、間だった。
エドワルドは、胸の奥で張り詰めていたものが、少し緩むのを感じた。
言葉を選ぶよりも、逃げずに話す。
その選択は、間違っていなかった。




