抱えきれなくなる前に
セキシャク鳥の囲いから、甲高い鳴き声が重なって聞こえてくる。
エドワルドは、柵の外から中を覗き込み、小さく息を吐いた。
「……孵った、な」
後から導入した組の巣にも、小雛が顔を出している。
数はまだ少ないが、間違いなく増えている。
喜ばしい。
間違いなく、良い兆候だ。
だが――
水桶を替え、餌を足し、小屋の様子を確認する。
その後、豚舎を回り、畑を一通り見てから、書面に目を通す。
気づけば、昼を過ぎていた。
「……」
立ち止まり、腕を組む。
最近、農家の何人かが手伝ってくれている。
だが、それも“ついで”だ。
本業があってのこと。
(このまま増え続けたら……)
頭の中で、作業を一つずつ並べていく。
水やり。
餌やり。
掃除。
糞の処理。
観察と記録。
どれも省けない。
どれも、雑にすれば必ず歪む。
「……俺一人じゃ、回らなくなるな」
口に出した瞬間、はっきりと理解した。
今は、何とかなる。
だが、“何とかなる”は、破綻の一歩手前だ。
中途半端になれば、失敗する。
それは、前の人生で嫌というほど経験した。
(同じことは、繰り返さない)
柵に手を置き、少し考える。
選択肢は、二つ。
農家に、もう少し任せる。
だが、それは責任の所在が曖昧になる。
専属の人を雇う。
だが、それは人件費だけでなく、育てる時間も必要だ。
(……早すぎるか?)
いや、違う。
遅れる方が、危険だ。
増えてから慌てるより、余裕のある今の方がいい。
「……人、か」
誰でもいいわけじゃない。
観察できる人。
雑に扱わない人。
変化に気づける人。
条件は、意外と多い。
「父上に、相談するべきだな」
勝手に決める話ではない。
だが、放置する話でもない。
エドワルドは、囲いの中で小雛を守る親鳥をもう一度見た。
命は増えるときほど脆い。
(抱えきれなくなる前に、手を打つ)
それは、成長の証でもあり、責任の始まりでもあった。
エドワルドは、静かに踵を返した。
次の一手は、“増やす”ではなく――“支える”ことだった。




