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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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再び森へ

手引き車の軋む音が、森の入り口で止まった。


「……留守か」


エドワルドは、狩人の家を見て小さく息を吐いた。

前回、森を案内してくれた人物だ。

できれば、今回も話を聞きたかった。


だが、いないものは仕方がない。


(だからと言って、帰る理由にはならない)


目的は、はっきりしている。


名もなき――

傷に塗ると効いた草。

煎じると痛みが和らいだ葉。

腹痛を抑えた根。


どれも、前の人生で「助けられた」ものだ。

だが、名前は知らない。

書庫にも、詳細な記録はない。


(自然に増えるのは分かっている)


だが、それだけだ。


種で増えるのか。

株分けなのか。

根を残せばいいのか。

刈り取ると枯れるのか。


そこまで分かる者は、ほとんどいないだろう。


(思い込みは、禁物だな)


エドワルドは、森へ足を踏み入れた。



森の中は、静かだった。


鳥の声。

葉擦れの音。

土の匂い。


足元を見ながら、慎重に進む。


(まずは……これだ)


記憶を頼りに、視線を走らせる。


低い位置。

湿り気のある場所。

木陰。


「あった……」


小さな草。

葉を揉むと、かすかに青い匂いが立つ。


(間違いない)


刃物を使わず、周囲の土を崩す。

根を傷つけないよう、慎重に。


一本、丸ごとではない。

周囲の状態も確認する。


同じ草が、少し離れた場所にもある。

だが、密集していない。


(……勝手に広がるタイプじゃないな)


種か、根か。

まだ判断はできない。


数本だけ採り、根元の土も一緒に袋へ。



次は、葉。


少し背が高く、風に揺れる。

乾いた場所より、半日陰。


葉脈がはっきりしている。


(煎じると、確かに効いた)


だが、量を間違えると苦かった。

強い植物だ。


こちらも、周囲を観察する。


根元から、複数の芽。

一つの株が、広がっているように見える。


(……株分けか?)


可能性は高い。


無闇に引き抜かず、外側だけを切り取る。

残りは、そのまま。


(全部持っていくのは、違う)


森は、実験場ではない。



最後は、根。


これが一番、厄介だった。


地面に目印はない。

葉だけでは、判断しにくい。


だが、場所は覚えている。

少し傾斜があり、水が溜まりすぎない場所。


掘る。


……あった。


太くはないが、しっかりした根。


(これだ)


周囲を見ると、同じ葉が点々とある。


(種か……)


根を半分だけ採取し、残りは埋め戻す。



一通り終え、手引き車を引きながら、エドワルドは森を見回した。


同じ植物でも、場所が違う。


湿った土。

乾いた斜面。

木陰。

日向。


(環境が、違う)


それが、答えだ。


「育てるなら……再現するしかない」


土。

水。

日当たり。


畑の真ん中では、駄目だろう。


(森の縁、か)


使われていない土地。

人の手は入るが、自然も残る場所。


そこなら――



帰り道。


狩人の家を、もう一度見た。


まだ、戻っていない。


「……次は、ちゃんと話そう」


礼も、まだだ。


今回の採取は、あくまで第一歩。

育つかどうかは、これから分かる。


だが、ベリーと同じだ。


森にあるものを、

人の手が届く場所へ。


(薬草も……同じだ)


飢えないだけでは、足りない。

痛みを和らげ、命を繋ぐ。


それもまた、領地を守る力だ。


手引き車の中で、葉が揺れた。


エドワルドは、前を見据える。


急がない。

だが、止まらない。


森で得たものは、

やがて――静かに、領地へ根付いていくはずだった。

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