鳴き声の増える庭
「……今度は、こっちか」
馬車の軋む音に、エドワルドは作業の手を止めた。
柵の外に積まれた木箱から、低く太い声が漏れてくる。
――ぶぉ、ぶぉ。
「豚、だな」
今回届いたのは、雄二、雌五。
話し合いの通りの頭数だ。
商人は慣れた手つきで柵の中へ導き入れる。
豚たちは鼻を鳴らしながら、地面を嗅ぎ回り、早速土を掘り返し始めた。
「……元気だな」
「このくらいなら、問題ありませんよ」
商人はそう言って、簡単な注意点だけ伝えると帰っていった。
◇
「さて……」
エドワルドは、豚の様子を眺めながら腕を組む。
餌。
基本は穀物のくず。
豆の選別で出た欠片。
傷んで食用に向かないじゃじゃ芋。
(雑食だし、選り好みはしないはずだが……)
試しに、いくつかの餌を分けて置いてみる。
ぶぉっ、と鼻息荒く寄ってきた豚は、迷いなく食べ始めた。
「……全部、食うな」
硬豆の煮残し。
芋の皮。
少し古くなった野菜。
どれも、問題なく平らげていく。
(扱いやすい)
セキシャク鳥とは違い、縄張り争いも少ない。
力はあるが、集団で落ち着いている。
「こっちは、数を増やすのが楽そうだな」
◇
しかし――
問題は、音だった。
ぶぉ、ぶぉ。
ぎゃあ、ぎゃあ。
豚の低い声と、セキシャク鳥の甲高い鳴き声が、交互に響く。
「……賑やかになったな」
畑仕事をしていた農家たちが、ちらちらとこちらを見ている。
気にならないはずがない。
「坊ちゃん、また何か増えましたか?」
「ええ、豚です」
「ほう……」
興味と不安が、入り混じった視線。
(まあ、最初はそうなるよな)
◇
数日もすると、家畜の世話は完全に日課に組み込まれた。
餌やり。
水の交換。
柵の確認。
そして――糞。
「……結構、出るな」
豚の糞は量が多い。
セキシャク鳥の糞と合わせれば、かなりの量になる。
だが、エドワルドは眉をひそめなかった。
(肥料になる)
干し、混ぜ、発酵させる。
畑に戻せば、確実に力になる。
「助かるな……本当に」
◇
夕方。
作業を終え、柵の外から家畜たちを眺める。
豚は地面に寝そべり、鳥は小屋に戻る。
鳴き声も、昼よりは落ち着いていた。
(また、一歩進んだ)
派手ではない。
だが、確実だ。
エドワルドは、静かに息を吐いた。
「……観察だな、まずは」
育てる。
見極める。
問題があれば、直す。
その繰り返し。
鳴き声の増えた庭は、確かに騒がしい。
だがその音は――
この領地が、生きて動き始めている証でもあった。




