縄張りという壁
「……来たか」
屋敷の裏手、簡易の飼育場に馬車が止まるのを見て、エドワルドは小さく息を吐いた。
木箱の中から聞こえてくる、甲高い鳴き声。
――セキシャク鳥だ。
「相変わらず、顔が……」
木箱を運んできた商人の顔は、今回も見事に傷だらけだった。
引きつった笑みを浮かべるその様子に、エドワルドは内心で察する。
(……やっぱり、そうなるよな)
「問題なく、連れてきましたよ。今回は言われた通り、雄一、雌三で」
「ありがとうございます」
商人はほっとしたように頷き、早々に引き上げていった。
◇
増築したばかりの柵へ、新しいセキシャク鳥を入れる。
――瞬間。
「ギャアッ!」
低く、荒々しい鳴き声が響いた。
既に飼っている雄と、新しく来た雄。
互いに首を伸ばし、羽を逆立て、目を剥く。
(……やっぱりか)
柵越しとはいえ、威嚇の圧が凄まじい。
今にも飛びかかりそうな勢いだ。
「このままじゃ……」
エドワルドは用意していた板を持ち出し、二つの区画の間に差し込んだ。
視界を遮る。
すると――
「……?」
先ほどまでの剣呑な気配が、嘘のように静まった。
鳴き声も、徐々に落ち着いていく。
「やっぱり、“見える”のが駄目なんだな」
縄張り意識。
存在を感じるだけなら耐えられるが、姿が見えると我慢ならない。
(対策は、出来そうだ)
板を固定しながら、エドワルドは一つ頷いた。
「一先ず、これでいい」
◇
既存のセキシャク鳥の様子も確認する。
小屋の奥では、雛がちょこちょこと動き回っていた。
「……五羽か」
最初の抱卵から孵った小雛は、五羽。
失敗を覚悟していただけに、かなりの好成績だ。
羽毛はまだ柔らかいが、足取りはしっかりしている。
餌もよく食べ、水も飲む。
「順調だな」
この成長速度なら、増えるのは時間の問題だろう。
(問題は……)
小雛の中に、雄がいるかどうか。
今のところ、小雛同士で威嚇し合う様子はない。
小競り合いすら起きていない。
(まあ、今はいい)
性別が分かるのは、もう少し先だ。
その時に、改めて考えればいい。
◇
エドワルドは、柵全体を見渡した。
板で仕切られた二つの区画。
静まった雄。
元気に動き回る雛。
「……やっぱり、やってみないと分からないな」
書庫の記録だけでは見えなかったこと。
商人の傷だらけの顔が、ようやく納得に変わった。
だが――
(対策は、出来る)
問題があるなら、潰す。
未知なら、観察する。
それだけだ。
エドワルドは、静かに餌皿を整えながら思った。
この鳥は、確かに扱いづらい。
だが、それ以上に――
「……伸びしろがある」
小さな雛が、ぴい、と鳴いた。
それは、この領地の未来が、また一歩前に進んだ音のように聞こえた。




