机上と森のあいだ
「……頭でっかち、か」
エドワルドは自室の椅子に深く腰掛け、天井を見上げた。
書庫で考え、数字で測り、先を読んで動く。
それ自体は間違っていない。
だが――
経験が伴わなければ、ただの空回りだ。
(ベリーが森にあるなんて……)
知識としては、どこかで読んだ気もする。
だが「見たことがない」という一点で、完全に切り離してしまっていた。
「はぁ……」
小さく、ため息が漏れる。
父に相談しても、恐らく同じだろう。
貴族として育てられ、森に入る理由がなかった。
兄も、同様だ。
(つまり……誰も知らない)
いや、正確には――
知らないのは、屋敷の中だけだ。
「……参ったな」
エドワルドは、椅子から立ち上がった。
書庫に答えはない。
商人にも限界がある。
ならば。
「聞くしかない、か」
農家。
狩人。
森に近い村の者。
子供たちですら、貴重な情報源だ。
(ベリー以外にも、何かあるはずだ)
食べられる実。
保存できる物。
薬になる草。
家畜の餌になる葉。
今まで、見えていなかっただけで――
森は、資源の塊かもしれない。
「……よし」
エドワルドは、軽く頬を叩いた。
失敗したなら、修正すればいい。
見落としたなら、拾い直せばいい。
机の上だけで領地は守れない。
「聞きまくるぞ」
そう呟いた声は、小さいが確かだった。
未来を知っているからこそ。
今、知らない事を知る必要がある。
エドワルドは、屋敷を出る準備を始めた。




