優先順位と盲点
(本来なら、果樹なんだがな……)
エドワルドは書庫を出た後も、頭の中で考え続けていた。
未来を知っている。
だからこそ、優先順位が自然と変わる。
だが――
それは外から見れば、不自然に映るかもしれない。
(果樹を避けてるように見える、か)
何も頼まないのは逆に怪しい。
ならば、成長が比較的早いものを混ぜる。
「……ベリーだけだと、偏るな」
他には。
果樹ではないが――
「砂糖楓」
樹液から甘いシロップが採れる。
時間は掛かるが、砂糖の代替になり得る。
(未来では重要になる)
エドワルドは、再び商人を呼んだ。
「追加で頼みたい物がある」
商人は一瞬だけ目を瞬かせたが、すぐに商人の顔に戻る。
「砂糖楓ですか?」
「そうだ。手配できるか?」
「……出来ますが、日数は掛かります」
「問題ない。数は……30本ほど」
「承りました」
話はそこで終わらない。
「それと、ベリーの苗木も」
「こちらは……30本程かな。増やしやすいらしいし」
商人の動きが、止まった。
「……あの、その……」
「ん? 手に入りづらいのか? それとも高いのか?」
「いえいえ、違います!」
「では?」
商人は、少し困ったように頭を掻いた。
「……森に入れば、直ぐに採れるかと」
「…………へ?」
思考が止まる。
「エドワルド様は、子供の頃に森へ入られませんでしたよね」
「村の子供達は、甘い物欲しさに……採れる時期になると、よく入りますので」
(ガーン……)
完全な盲点だった。
書庫。
商談。
計画。
(……全部、無意味)
エドワルドは、軽く額を押さえた。
「……わかった。ベリーの話は忘れてくれ」
「その代わりと言っては何だが」
商人の顔が引き締まる。
「砂糖楓を、追加で20本頼む」
「……承知しました!」
商人は即答した。
(森に行けば採れる物を、商人に頼むとか……)
少し恥ずかしい。
だが――
(時間は有限だ)
そう自分に言い聞かせ、エドワルドは静かに息を吐いた。




