セキシャク鳥
「――セキシャク鳥!」
商人の荷車から降ろされた籠を前に、エドワルドは目を輝かせた。
雄、一匹。
雌、三匹。
「ほう……これがセキシャク鳥か」
羽は想像よりも大きく、色は地味だが体格がいい。
首を伸ばし、こちらを睨む雄の目つきが――やけに鋭い。
「……ん?」
ふと商人を見る。
「……商人さん?」
「はい?」
「顔、どうしたんですか。その……傷」
頬、額、首筋。
引っかき傷のようなものが、いくつも残っている。
商人は一瞬、視線を逸らした。
「い、いえ……ちょっとした事故で」
「事故?」
「……鳥、です」
即答だった。
一通り、飼い方の説明を聞く。
・餌は穀物中心
・水は清潔に
・寒さには比較的強い
・卵をよく産む
・育成も難しくない
(……思っていたより、ずっと簡単だな)
エドワルドは首を傾げた。
「……なのに、何故こんな良い家畜が広がってないんです?」
商人は、少しだけ苦い顔をした。
「……雄が、凶暴でして」
「凶暴?」
「はい。特に雄同士」
商人は、指を一本立てた。
「縄張り意識が非常に強い。雄が二匹以上いると、必ず争います」
……なるほど。
「なので」
商人は、念を押すように言った。
「雄同士では、絶対に飼わないで下さい」
エドワルドは、ゆっくり頷いた。
(雄一匹、雌三匹……理にかなっている)
そして、もう一つ理解した。
(……この傷、全部“彼”だな)
籠の中の雄が、ガンッと音を立てて籠に体当たりした。
そのやり取りを、横で腕を組んで聞いていた人物がいる。
兄だ。
「……面白いな」
目が、完全に“興味津々”である。
「兄さん?」
「雄が凶暴、か」
兄は、籠を覗き込んだ。
その瞬間。
「――ギャアァァッ!!」
雄が、羽を広げ、威嚇の叫びを上げた。
兄の口元が、わずかに吊り上がる。
「ほう」
(やめて下さい。。兄さん。。)
エドワルドの危険察知能力が、全力で警鐘を鳴らす。
囲いの中には、簡単な小屋を既に作ってあった。
「まずは、ここで試します」
「増えたら?」
「規模を大きくします。段階的に」
兄は、頷いた。
「堅実だな」
その直後。
雄が、囲いの中で暴れた。
「ギャアッ!!」
羽を広げ、地面を蹴り、兄に突進――
「――来たな」
兄、迎撃態勢。
「兄さん!? ちょ、待ってください!!」
エドワルドの声は、完全に遅かった。
「ギャアアア!!」
「おっと」
バサッ!羽が舞う!雄の鋭い蹴り!
「――っ」
兄、半歩下がる。
「兄さん!!」
「大丈夫だ」
……いや、そういう問題じゃない。
「殺さないでくださいよ!!」
「殺すつもりはない」
「でもどう見ても――」
「俺がやられそうだ!」
兄が、普通に言った。
(嘘でしょ!?)
雄が、さらに激しく威嚇する。
「ギャギャギャ!!」
「……なるほど」
兄は、真顔で言った。
「こいつ、強いな」
(評価しないで!!)
最終的には、棒と盾(農具)を使い、なんとか距離を保たせて囲いに戻した。
雄は、まだ不満そうに羽を広げている。
「……確かに、凶暴ですね」
エドワルドは、深く頷いた。
「商人さんの言う通りだ」
兄は、少しだけ息を整えながら笑った。
「だが」
「?」
「これは、“管理できれば”価値がある」
その言葉に、エドワルドは強く頷いた。
「はい」
危険だ。
だが、扱いきれないほどではない。
「雄は一匹まで」
「囲いは強化」
「人が近づく時は、注意」
ルールは、作れる。
◇
商人は、遠くからその光景を見て、静かに呟いた。
「……あれに向き合う家は、少ないんです」
だから、広がらなかった。
だが。
「……でも、あのご兄弟なら」
商人は、少しだけ安心した顔で、荷車を引いて帰っていった。
囲いの外で。
エドワルドは、雄を見ながら思う。
(この鳥も、“使われなかった理由”があった)
だが、理由が分かれば――
対策は、立てられる。
「……よし」
セキシャク鳥の試験飼育。
これもまた、0からだ。
だが。
兄は、まだ楽しそうに雄を見ていた。
「……次は、俺が勝つ」
「勝たなくていいです!!」
エドワルドの叫びが、夕暮れの農地に響いた。




