保護という名の拘束
「父上!お話があります」
執務室に入ると、父上は書類から顔を上げた。
「如何した?何か問題が起きたのか?」
「はい。今、我が領内に――灰鴉傭兵団が、保護民と共に滞在しております」
その名を聞いた瞬間、父上の表情が僅かに変わった。
「……灰鴉傭兵団?あの、灰鴉か?」
「はい」
一呼吸置いて、続ける。
「隣領で雇われていた様ですが、
“民を殺せ”との命令を拒否した結果、解雇――実質的には追放されたとの事です」
父上の目が細くなる。
「それは……」
「はい。
さらに問題なのは、傭兵団の団長が体力回復後、この領地を抜けて隣国へ向かおうとしている点です」
父上は黙って聞いている。
「彼らは、命令の実態を知る生き証人です。
このまま隣国へ行かせれば、情報を握ったまま外へ出る事になります」
「……隙になる、か」
「はい。
ですので、証人として保護すべきだと考えます」
しばしの沈黙。
父上は椅子に深く座り直し、腕を組んだ。
「確かに、一理ある」
だがすぐに、現実的な懸念が口を突く。
「しかし、傭兵は金が掛かるぞ?」
「表向きは“保護”です」
俺は正直に言った。
「もっとも、相手がどう受け取るかまでは分かりませんが……」
「ふむ……」
父上は顎に手を当て、少し考え込む。
「そうだな」
そして、あっさりと言った。
「お前の予算内で収まるなら、エドワルド――お前が判断しろ」
「……!」
一瞬、言葉が詰まる。
「解りました!」
深く頭を下げる。
父上は小さく笑った。
「随分と物騒な“保護”を思いついたものだ」
「ですが」
俺は顔を上げた。
「これで、交渉権はこちらにあります」
「……確かにな」
証人を押さえた。
しかも、相手は筋を通すと評判の傭兵団。
剣では無く、存在そのものが抑止力だ。
「さて」
父上は話を締める様に言った。
「それから、どうする?」
「……正直、金額が読めません」
思わず本音が出る。
「衣食住は直ぐに対応出来ますが、
彼らが“どこまで”を求めるか……」
「なら」
父上は軽く肩をすくめた。
「直接話してみる事だ」
「……ですね」
俺は静かに頷いた。
傭兵団。証人。保護という名の拘束。
そして――前世で、俺の首を刎ねた男。
運命は、確実にこちらへ寄って来ている。
さて。次は、値踏みだ。




