生き証人という切り札
「グレゴール、灰鴉傭兵団って知ってる?」
俺の問いに、グレゴールは即座に頷いた。
「はい。有名です。金だけで動く集団では無く、契約の“筋”を重んじると聞いております」
「……成る程な」
胸の中で、嫌な点と点が繋がっていく。
「それで“民を殺せ”という命令を拒否して、解雇――いや、事実上の追放か」
グレゴールは静かに肯定した。
「その可能性が高いかと」
「て言うかさ!」
思わず声が荒くなる。
「隣領、国境すら接してないだろ!?
何でわざわざ傭兵団なんて雇ってるんだよ!」
「……」
グレゴールは答えない。だが、答えは分かっている。
正規兵を動かせば、嘘が表に出る。
だから、傭兵を使った。
「くそ……」
机に手をつき、深く息を吐く。
「それより問題は、どうやってこの連中をこの地に残すか、だ」
「……」
「父上に“傭兵団を雇いたい”なんて言える訳が無い。今は必要無いし、何より政治的に重すぎる」
グレゴールは、俺をじっと見ていた。
「ですが」
静かな声で、切り出す。
「エドワルド様は、彼らを手放したくない」
「……ああ」
即答だった。
「今は要らない。でも、後で必ず“大きな戦力”になる。それに――」
言葉を選ぶ。
「通したら、取り返しがつかない気がする」
グレゴールの目が、僅かに細くなった。
「それならば」
一歩、踏み込んでくる。
「先ほどの会話が、全てです」
「……?」
「“民を殺せ”という命令。それを拒否した事実」
俺は、はっとした。
「それは……」
「生き証人です」
きっぱりと言い切る。
「隣領が、
・正規兵を使えず
・傭兵を雇い
・民を排除しようとした
その証拠になります」
「……!」
背筋が、ぞくりとした。
「成る程……そうか……!」
武力じゃない。雇用でもない。
証言だ。
「傭兵団として雇う必要は無い」
グレゴールは続ける。
「“保護下に置く”だけで良いのです」
「保護……」
「はい。不当な命令を拒否した結果、追われる立場となった者として」
それなら――
父上に説明出来る。政治的にも、筋が通る。
そして何より。
彼らは、ここを離れられなくなる。
俺は、ゆっくりと息を吐いた。
「……よし」
顔を上げる。
「それを父上に話す。“傭兵団”じゃない。
“証人”として、だ」
グレゴールは、僅かに微笑んだ。
「流石です、エドワルド様。剣を振らずに、相手の動きを縛る」
――そうだ。
これは戦だ。だが、血は要らない。
少なくとも、今は。
次は、父上だ。




