表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

149/153

名を名乗らぬ者たち

父上から話を聞いた俺は、間を置かずに動いた。

じゃじゃ芋を持たせて商人を出す。帰りは保護民を連れて来させる。

了承を得られるかどうかなど、正直どうでも良かった。


既に保護は始まっている。

それが答えだと、俺は解釈した。


数日が経った頃だった。


「エドワルド様!保護を求めている一団が、この地の責任者と話がしたいと申し入れています」


「……申し入れ?」


嫌な予感ではない。

だが、今までとは毛色が違う。


「解った。その者をここに呼んでくれ」


現れたのは、屈強な男だった。

農民にしては体つきが良すぎる。

商人の雰囲気でもない。


――何者だ?


男は俺を見るなり、一瞬だけ眉を動かした。


「……貴方が?」


「はい。この地の保護を任されております。領主の次男、エドワルドと申します」


男は、すぐに頭を下げた。


「それは失礼を。では……ここにいる保護民も、全てエドワルド様の判断で?」


「はい。一任されておりますが」


一瞬、男の目が俺の“背後”を測るように動いた。

兵の配置、医療兵、物資――全てを。


「……一つ、お伺いしたい」


「どうぞ」


「我々は、隣領の民ではありません。

ですが……食事を頂く事に、問題はありますか?」


一瞬、言葉の意味を考えた。


隣領ではない?

だが“我々”と言った。しかも人数を把握している口ぶり。


「……はい。

保護を求める者は、全て受け入れます」


即答した。


男は、わずかに安堵した様に息を吐く。


「では、お言葉に甘えます。私以下、五十名。しばらくお世話になります」


五十名――しかも、統率された数。


「解りました。まずは十分に休んで下さい。食事と寝床はすぐに用意します」


「感謝致します」


男は深く頭を下げた。


去っていく背中を見送りながら、俺は確信していた。


――この人達、ただの難民じゃない。


だが今は、それでいい。

名を名乗らぬ理由があっても、腹が減っている事に変わりはない。


そして俺は気付いていた。


この保護は、“逃げて来る民”だけでなく、“集まって来る者”も引き寄せ始めている。


波は、静かに形を変えつつあった。


背中が遠ざかるのを見送りながら、胸の奥がざわついた。


――一体、何だ?


ただの難民ではない。

それは、理屈ではなく感覚で分かっていた。


だが同時に、別の違和感が引っかかる。


どこかで、見た事がある。

いや、正確には――知っている。


あの立ち姿。

周囲の確認の仕方。

俺の言葉を聞く前に、場を測る目。


……軍人か?


だが、俺は軍人と直接会った記憶は無い。

商人の所へ顔を出した時の護衛?

いや、違う。そこまで接点は無かったはずだ。


「……?」


思考が、ふと引き戻される。


――違う。


ここじゃない。この世界じゃない。

胸の奥が、ひやりと冷えた。


前世だ。


はっきりと思い出した。

俺の首を刎ねた男。


隣国が攻め込んできた、あの混乱の中。

捕らえられ、引きずられ、最後に視界に入った――


無駄のない動き。感情の無い目。

命令を遂行する為だけの姿。


――あいつだ。


同一人物かどうかは分からない。

だが、“同じ側の人間”だ。


あの五十人。あの統率。

そして、名を名乗らなかった理由。


背筋に、冷たいものが走った。

だが同時に、別の考えも浮かぶ。


……もし、そうだとしたら。


俺の前に現れたのは、敵ではなく、逃げて来た側なのか?


前世で、俺の命を奪った“戦”は、この世界では――まだ、始まってすらいない。


だが確実に、近づいている。

俺は静かに拳を握った。


――もう一度、同じ結末にはさせない。


あの男が何者であろうと。

この領で、俺が守ると決めた。


それだけは、揺るがなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ