最短距離
南の建設予定地には、かつて無いほどの資材と人員が投入されていた。
木材、石材、釘、布、縄。
そして大工、左官、荷運び、炊き出し係まで含めた即席の“町づくり”だ。
エドワルドの指示は明確だった。
「建物を建てやすい場所を優先して下さい。
完璧さは求めません。住める事が最優先です」
その言葉通り、現場は迷いが無かった。
本来なら先に切り払うべき木々はそのまま残され、通行の邪魔になる分だけを最低限倒す。切り株の処理も、整地も後回し。
「後で直せるものは、今やらない」
それが合言葉の様に、現場に浸透していった。
道の整備も同様だった。
曲線や景観など考慮しない。
荷馬車が通れ、人が歩ければそれで良い。
可能な限り直線的に。可能な限り短く。
遠くから見れば、無骨で雑然とした光景だっただろう。
だが、その一本一本の道は――
“今夜、雨風を凌ぐ為の道”だった。
エドワルドは、高台からその様子を見下ろしながら思う。
美しい町は、後から作れる。
秩序も、区画も、見栄えも。
だが今必要なのは、生き延びる為の場所だ。
そして、その為に後回しにしたものの数だけ、彼は覚悟を積み重ねていた。
商人達が、保護民を連れて戻って来た。
比較的、近場の村からだという。
人数は多くない。
だが、その顔色を見れば十分だった。
話を聞くと、やはり不作。
蓄えていた食料は既に底を突き、最後は日毎に量を減らしながら凌いでいたらしい。
「もう……畑を見ても、何も期待出来ませんでした」
その言葉は、先に保護された者達と全く同じだった。
衰弱の度合いも、ほぼ変わらない。
違うのは、倒れる場所がこちらか、向こうかだけだ。
エドワルドは頷いた。
「まずは東の三つの村で一時的に保護を。
そこから順次、領都へ送って下さい」
商人達も理解していた。
一気に動かせば、どこかで必ず綻びが出る。
村で受け止め、回復させ、運べる者から運ぶ。
その流れが、自然と出来上がりつつあった。
誰かが声高に命じた訳ではない。
だが、皆が“同じ正解”を見て動いていた。
噂ではなく、恐怖でもなく、手順として。
そしてその手順は、静かに、しかし確実に広がっていった。
——これが、始まりなのだと。




