一手先の布石
「グレゴール!」
馬を降りるなり、私は声を張った。
「父上へ至急、早馬を!」
即座に反応が返る。
「はい!内容はいかが致しますか?」
一瞬だけ言葉を選ぶ。しかし迷いは無い。
「東の三か所の村すべてに、治安維持を目的とした武装兵の配置を要請して下さい!表向きは“保護民の安全確保”だ。決して威圧にならぬ様にと添えて」
グレゴールは小さく目を細め、すぐに頷いた。
「承知しました。早馬を二頭立てで出します」
指示が飛び、馬が駆け出していく。
その背を見送りながら、背後から低い声が掛かった。
「流石ですな、エドワルド様」
振り返ると、側に居た文官が感心した様に腕を組んでいた。
「難民対応だけで終わらせず、“次に起きる事”を見据えておられる」
「……奪われた側が増えれば、必ず奪う側も増える」
「武装した“盗賊”になる前に、止めないといけないだけです」
自分で言いながら、嫌な現実を噛み締める。
「村に兵が居るだけで、抑止力になります!手遅れになってから剣を抜くより、余程安上がりだ」
グレゴールは小さく笑った。
「これは父上も、さぞ驚かれるでしょうな。判断が早い。しかも静かだ」
「父上が決断を下し易い様に、材料を揃えているだけです」
私は空を見上げた。
「……まだ戦ではありません!ですが、これはもう“準備段階”です」
文官は深く一礼した。
「私もうかうかしてはおれませんな!影で出来る事は、全て整えておきましょう」
早馬の蹄の音が、遠ざかっていく。
この一手が、争いを未然に防ぐ布石になるのか、それとも――
答えが出るのは、そう遠くない。




