表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

133/152

剣なき戦の始まり

グレゴールは判断が早かった。


「文官十五名、早馬五頭。即時編成だ」


迷いは一切無い。彼自身、この事態を“局地的な混乱”とは見ていなかったのだろう。


人員は、記録・聴取・配給・交渉――すべてを想定した布陣だ。

そして早馬は情報の生命線。遅れは許されない。


我々は、その隊列を見送りながら東へ向かった。


「さて……御坊ちゃま」


グレゴールが、いつもの半歩後ろから声を掛けてくる。


「如何なさいますか?」


「……まだ状況が分からない。ですが」


俺は馬の歩みを緩めず答えた。


「恐らく、これはまだ始まったばかりです」


「ですな」


短い肯定。彼も同じ答えに辿り着いている。


「向こうの領主は、どう動くと思いますか?」


俺は空を見上げながら言った。


「村人が、領地を捨てて逃げた。普通なら、何かしらの弁明か、取り繕いが出るはずだ」


「しかし」


「……何もしない可能性もある」


グレゴールが僅かに眉を動かす。


「あるいは」


続けて俺は、言いたくなかった可能性を口にした。


「我が領が、村人を“連れ去った”と吹聴するか」


「なっ……!」


思わず声が漏れた。

剣も抜かれていない。血も流れていない。

だが、これは明確な――


「既に戦ですな」


グレゴールが静かに言った。


「剣は交えておりませんが、戦は始まっています」


「……嘘を隠す為の、嘘」


「ええ。そしてその嘘を守る為に、さらに人が切り捨てられる」


俺は歯を噛み締めた。


これが、父上が言っていた“政治でもない戦”。責任から逃げる為の戦。


「だからこそ、現地を見る必要がある」


「ですな。逃げた理由は、必ず痕跡を残します」


馬は東へ進む。最初に崩れた村へ。


剣を抜く事は無いかもしれない。

だが――負ければ、領民が死ぬ。


それだけは、はっきりしていた。


その村に着いた時、空気が違っていた。

人は居る。村ではない。


家々は静まり返り、広場にだけ人が集められていた。

村長が判断したのだろう。隣村から流れて来た人々を、目の届く一か所にまとめていた。


顔に疲労が張り付いている。

子供を抱えた母親、俯いた老人。

誰もが、ここが“自分の村ではない”事を理解している表情だった。


恐らく、向こうの村長とは既に話をしたのだろう。

保護という形を取らねばならないほど、切羽詰まった状況だったという事だ。


俺は村長に向き直る。


「……直接、話をしても構いませんか?」


村長は一瞬だけ迷い、それから頷いた。


「それは勿論です。この方々も、話したがっています」


背後で、グレゴールを見る。

彼は余計な言葉を挟まず、ただ静かに頷いた。


俺は一歩前に出る。


「私は、この領地の次男、エドワルドと申します」


名乗った瞬間、ざわめきが走る。

だが、今はそれを気にしている余裕は無い。


「一体、何があったのですか?」


問い掛けに、年配の男が一歩前に出た。

恐らく、向こうの村長か、それに近い立場の者だろう。


「……はい」


声は掠れていた。


「数日前、数人の兵が現れました」


兵――その言葉に、胸の奥が冷える。


「どこの兵かは名乗りませんでした。ですが装備は整っており、命令口調でした」


「何を要求したのですか?」


「今年、収穫した小麦……その全てです」


一瞬、周囲が静まり返った。


「備蓄も、種用も、関係ありませんでした。

逆らえば反逆と見做す、と」


俺は言葉を失った。


「……そして」


男は、拳を握り締めた。


「全て、持って行かれました」


奪われたのは、小麦だけではない。

冬を越す希望そのものだ。


「それで……村を捨てたのですか?」


「はい」


即答だった。


「残れば、次は人が持って行かれる。そう言われましたから」


背後で、グレゴールの気配が変わる。

これは偶発ではない。組織的で、意図的だ。


俺は深く息を吸った。


――嘘を守る為に、村を切り捨てた。

父上の言葉が、はっきりと形を持った。


これは飢饉の始まりではない。略奪から始まる統制だ。


「……分かりました」


俺は頭を下げた。


「ここに来た以上、あなた方を追い返す事はしません。必ず、対処します」


それが、どれほど重い約束かを理解した上で。


この瞬間、戦はもう、後戻り出来ない場所まで進んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いきなり助けると明言したらまずいでしょ。 大飢饉が起きたらあそこの領内行けば助けてくれると噂が流れたら領民が邪魔になった領主が全部没収してグレイス領に行けば助けてくれるぞと言い放って領内から追い出す助…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ