嘘が先にあった
エドワルドは、ベットに寝転び天井を見ていた。
父上が居なければ、俺はまた履き違える所だった。
自分の領地に金と食料を溜め込み、不作になれば他領を可能な限り助ければ良い。
それが貴族であり、領主の務めだと――そう思っていた。
真実は違っていた。
今回の一連の流れは、天候だけが原因では無い。
天候は、ただの引き金に過ぎなかったのだ。
嘘が、先にあった。
豊作だと偽り、問題を先送りし、上には耳障りの良い報告だけを上げる。
周囲が「問題無い」と言っている中で、「不作です」とは言えない。
言えば責められる。立場が悪くなる。評価が下がる。
その結果、辻褄を合わせる為に、無理をする。
備蓄を削り、市場に流し、本来残すべき物まで吐き出す。
天候が崩れた瞬間、その嘘は一気に露呈した。
いや、正確には――天候が嘘を吐き出したのだ。
そう考えると、胸の奥が冷えた。
俺が持っていた「記憶」も、どこかで歪められていたのではないか。
凶作は自然災害。どうしようもない出来事。
そう思い込んでいたが、実際は人の判断、人の保身、人の嘘が積み重なった結果だったのかもしれない。
もし父上が居なかったら。
俺は、ただ「善意」で動いていただろう。
事情も知らず、構造も理解せず、表面だけを見て食料を放出していたはずだ。
そして、それを当然の様に受け取り、
原因を作った者達は何も認めず、何も変えず、
次もまた同じ事を繰り返す。
父上は、そこまで見ていた。
助ける事と甘やかす事は違う。
救う事と誤魔化しに加担する事は違う。
恐らく、嘘を吐いた者達は最後まで認めないだろう。
「仕方なかった」「誰でもそうした」「運が悪かった」と言うに違いない。
それでも――
父上が居てくれた事で、俺は一歩手前で立ち止まれた。
助けるべき相手と見極めるべき相手が居る事を、ようやく理解出来た。
この先、もっと厄介になる。もう目は逸らさない。
嘘の上に立つ救済など、救いでは無いのだから。
考え込んだまま、俺は一度息を吐いた。
んー……となると、次に必要なのは他領地の情報だな。
物流の流れは商人に聞けばある程度掴める。
どの街道が動いているか、どこで滞っているか、どの商人が動きを止めているか。
その辺りは彼らの得意分野だ。
それだけでは足りない。
欲しいのは、もっと基礎的な情報。
各領地の作付け状況、備蓄量の目安、税の扱い、過去数年の収穫傾向。
そして、今回の税率引き上げが、どの領まで波及しているのか。
父上に聞けば早い。だが――今回は違う。
父上は全体を見ている。
だからこそ、今は敢えて俺が動くべきだ。
「次」を見据える為に。
となると、側近の中から選ぶ必要がある。
商人寄りの人間では駄目だ。
情報が速くても、必ず色が付く。
噂と利害が混ざる。
軍寄りも違う。
彼らは安全保障と治安が主で、経済や農政には疎い。
欲しいのは――
数字を扱えて、過去を知っていて、感情で話さない人物。
出来れば、王都の動きと地方の実情、その両方を把握している者。
……側近の顔が、何人か頭に浮かぶ。
条件に合うのは一人だけだ。
あの人なら、余計な忖度も無く、「分からない事は分からない」と言い、「危ない物は危ない」とはっきり告げる。
よし。
まずは、その人物に話を聞こう。
他領地の“現実”を知る為に。
ここから先は、俺一人の判断じゃない。
動き出すのは――今だ。




