表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/152

遅れて始まる春

やっと、長い冬が明けた。

だが田畑には、まだ雪が残っている。


土は湿り、踏みしめれば冷たさが足裏に伝わってきた。

春とは呼べても、作付けには程遠い。


商人からの話では、この辺りは特に雪が酷かったらしい。

他の地域では既に畑を耕し、種を蒔き始めている所もあるという。


我が領だけが、取り残された様にも見えた。


だが――焦りは無かった。


父上は状況を一目見て、即座に判断を下した。

この春は無理をしない。

雪が残る畑では、例年通りの作物を狙う必要は無い。


「それならば、黒麦だ」


そう告げられ、農家へと通達が出された。

冷えに強く、痩せた土地でも育つ作物。

雪解けの遅れを、弱点ではなく条件として受け入れる選択だ。


作付けを命じられた地区へ、人が集まり始める。

農家だけでなく、手伝いの者、様子を見に来た者も混じっていた。


遅れて始まる春。

だがこの領地は、遅れた分だけ備えている。


雪の下で眠っていた土は今年もまた、違う形で応えてくれるはずだ。


それ以外に、手の空いた者には加工場での仕事が命じられた。

畑に出られぬ者が遊ぶ事は無い。


加工場は今なおフル稼働だった。

小麦の在庫も、まだ十分過ぎるほど残っている。


変な話だが――

今年、何もせずとも、この領内だけなら養えてしまう程の量だ。


それでも手を止める理由にはならない。

加工を進め、保存を高め、備えを厚くする。


この長い冬と遅い春が、何を意味するのかはまだ分からない。

だが一つだけ確かな事がある。


この領地は、もう「その日暮らし」ではない。


交差する作付け。


父上は随分と思い切った事をした。

比較的、収穫率が高いとされていた農地にまで黒麦を蒔いたのだ。


それだけでは無い。

例年なら黒麦を蒔くはずの痩せた土地に、今度は小麦を入れている。

しかも時期をずらして、後追いで。


正直、最初は首を傾げた。

効率だけを見れば、最適解とは言い難い。

だが、これは「効率」の話では無いのだろう。


天候は、相変わらず不安定だった。

春は短く、朝晩の冷え込みは強い。

雨も多く、日照は安定しない。


この条件なら、小麦は必ずどこかで躓く。

だが黒麦は違う。

冷えにも、湿りにも、痩せた土にも耐える。


ならば――

全てを賭けるのでは無く、分散させる。

どこかが倒れても、どこかが残る様に。


父上は、そう判断したのだろう。


農家達は戸惑いながらも、命じられた通りに手を動かしている。

去年までの豊作があるから、不安はあっても混乱は無い。


だが、俺には分かる。

この作付けは「備え」だ。


今年は凶作。

それを前提に、もう動き始めている。


――ここからだ。

この年が、分岐点になる。


更に冬が長引いた影響で、全ての作物の進みが後ろへとズレていっている。

種を蒔く時期、芽吹く時期、育つ速度。

どれもが一段、遅い。


だが不思議な事に、仕事に事欠く事は無かった。

加工場は相変わらず稼働し、倉庫の管理や運搬も続いている。

領内は忙しく、停滞している様子は無い。


問題は、この先だ。


小麦が凶作になる事は、俺は知っている。

それは記憶として確かなものだ。

だが――今回、それだけで終わるのか?


あの時には無かった作物が、今はある。

黒麦。

ベリー。

加工品として蓄えられた大量の食料。


それらが、この凶作の年にどう影響するのか。それは、俺の記憶の中には無い。


俺が知っているのは、大まかな流れだけだ。

どこで歪みが生じ、どこで破綻が起きるのか。そこまでは見えている。


だが――

今回は、その途中に無数の「知らない要素」が挟まっている。


それが救いになるのか。

それとも、別の混乱を呼ぶのか。


まだ、判断はつかない。

だが確かなのは、もう同じ未来にはならない、という事だけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ