積み重ねた一年、その先へ
――1年後。
あれから俺は、ひたすら剣の練習に力を入れていた。
基礎から始め、体力づくり、反復、姿勢。
思い付く限りのことは、全てやったつもりだ。
……つもり、という言葉は正直あまり使いたくない。
だが、慢心するほどの才があるわけでもない。
だからこそ、出来ることを一つずつ積み重ねるしかなかった。
領内の様子は、大きく変わった。
余裕が生まれたことで、田畑の全面的な開墾が進められた。
ただ耕すだけではなく、水路、道、区画整理。
それに合わせて倉庫や加工場も増設され、点ではなく面で機能する様になっている。
俺も12歳になった。
身体はまだ小さいが、去年よりは確実に力が付いている。
剣を振るう時間も増え、息が上がるまでの感覚も伸びた。
そして今年。
開墾が進んだ分、収穫量はさらに増えている。これはもう疑いようがない。
黒麦も一部だが市場に出回り始めた。
料理人たちが工夫を重ね、混ぜ物や調理法も確立され、「まあまあ」どころか、一定の評価を得ているらしい。
王国の一部地域では不作があったと聞いた。
そのため、小麦は加工せず、そのまま出荷したとも。
この展開は、俺の記憶には無い。
いや、正確には――起こり得なかった事だ。
余裕があったからこそ、助ける側に回れた。
それだけの話だが、その差は大きい。
このまま行けば、来年。
この地域全体が、大豊作を迎えるはずだ。
問題は――その先に、何が待っているか、だな。
久々に父上から呼び出しを受けた。
一体、何の用だろうか。
執務室に入ると、父上は書類から顔を上げ、俺を一瞥した。
「エドワルド。最近は剣に邁進している様だな?」
「はい。練習は毎日行っております」
嘘は無い。
朝と夕、短くても必ず剣を握る様にしている。
父上は軽く頷くと、再び書類へ視線を落とし、淡々と告げた。
「今年も我が領は、大豊作と言って良い」
その言葉に、胸の奥で小さく息を吐く。
やはり、という思いと、まだ終わっていないという思いが同時に浮かんだ。
「各村々の倉庫は溢れんばかりだ。そのお陰で、他の領地にも小麦を回す事が出来た」
机の上に並ぶ報告書の束が、それを物語っている。倉庫、加工場、運搬。
全てが滞りなく機能しているからこその結果だ。
「今年はな、ただ豊作だったというだけでは無い」
父上はそう言って、俺を真っ直ぐに見た。
「余裕を持って他領を助ける事が出来た。これは領主として、非常に大きい」
……やはり、そこか。
豊作そのものよりも、その“使い方”。
父上が見ているのは、常にその先だ。
「エドワルド。お前がこれまで蒔いた種が、形になり始めている」
その言葉に、背筋が自然と伸びる。
だが同時に、胸の奥がざわついた。
豊作が続くという事は、注目もまた集まるという事だ。
これは、褒め言葉だけで終わる話ではない。
――そう、直感が告げていた。




