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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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積み重ねる時間

あれから毎日、兄と剣の練習を行っている。

今の俺は、領地の運営に直接携わっている訳でも無い。


黒麦の畑だけは、毎朝顔を出して様子を見る。

芽は揃い始め、思っていたよりも安定している。

だが、それ以上に手を掛ける段階でも無い。


つまり――時間がある。


だからこそ、剣の練習に集中出来た。


「今日も素振りからだな」


「はい」


内容は変わらない。派手な技も無い。

ただ、振る。止めない。形を崩さない。


最初の頃は、三十も振れば腕が上がらなくなった。

今でも楽では無いが、五十、六十と振れる様になってきた。


「少しずつだが、良くなってる」


兄はそう言ってくれるが、自分ではまだ足りないと感じる。力が足りない。体幹も弱い。

何より、動きが重い。


それでも、初日よりは確実に違う。


汗のかき方も、息の上がり方も変わってきた。翌日の筋肉痛も、以前ほどでは無い。


「無理はするな。でも、手は抜くな」


兄の言葉は、相変わらず簡潔だ。

だが、その一言一言が、経験から来ているのが分かる。


休憩の合間、木剣を地面に立て掛けて座り込む。


「兄上は、いつから剣を?」


「物心ついた頃からだな。父に連れられて」


やはり、時間が違う。

俺が追い付くには、相当掛かるだろう。


それでも……


やらなければ、差は縮まらない。

やれば、少しずつだが確実に前に進む。


それは畑と同じだ。一日で結果は出ない。

だが、手を入れ続ければ応えてくれる。


「午後は打ち込みもやるか」


「……はい!」


まだ早い気もする。

だが、兄がそう言うなら意味があるのだろう。


剣を握り直す。

手のひらに出来た小さな豆が、少し誇らしい。


今は、何も抱えていない。

だからこそ、出来ることがある。


この時間は、きっと無駄にはならない。



実りを迎える準備


気が付けば、夏はいつの間にか過ぎ去り、空気に秋の気配が混じり始めていた。

朝晩は涼しく、肌に触れる風も柔らかい。


大きく何かが変わったかと言えば、やはりベリー畑だろう。

気付けば、以前の十倍以上の広さになっていた。


当然と言えば当然だ。

枝を切り、水に浸け、根が出たものを軽く掘った地面に植える。

それだけで、いくらでも増やす事が出来た。


元手はほぼ無い。手間だけだ。


最初は屋敷の一角だったものが、今では畑と呼んでも差し支えない規模になっている。

白い花が終わり、実を付ける準備をしている枝を眺めながら、自然と息が漏れた。


「……増えたな」


もうすぐ、本格的な秋を迎える。

収穫の時期だ。


畑の様子を見る限り、予想は一つ。

豊作。

それも、かなりの量になる。


だからこそ、手は打ってきた。


各村の倉庫は拡張し、朽ちたものは建て替えた。

領都にも第二倉庫を設け、加工場にも専用の保管場所を増やした。


一箇所に溜めない。段階的に吸収する。


それが上手く機能すれば、混乱は防げる筈だ。


……吸収出来れば、だが。


収穫量が予想を超えた場合、まだ想定外は起こり得る。

だが、何もしないよりは遥かにマシだ。


ここまで来たら、後は天に任せるしかない。


空を見上げると、雲は高く、秋らしい澄んだ青が広がっていた。

この空の下で育った作物が、どれ程の実りをもたらすのか。


静かな期待と、僅かな不安。

その両方を抱えたまま、俺は畑を後にした。


もうすぐだ。


小麦の刈り取りが始まった。

黄金色に染まった畑に、人が入り、一列ずつ刈り進めていく。


見た目は良い。

だが、最後まで終わらないと何とも言えない。

途中で雨が降るかもしれないし、倒伏が起きる可能性もある。


今は、待つしか無い。


その様子を遠目に見ながら、俺は自分の畑へ向かった。


黒麦だ。


こちらは俺が一人で刈り取る事にした。

規模は大きくないし、実験の意味合いが強い。

農家に任せる段階では無い。


鎌を握り、一本ずつ刈り取っていく。

小麦に比べれば背は低く、茎も細い。

だが、痩せた土地でも、肥料を与えなかった場所でも、確かに穂を付けている。


「……悪くない?」


正直な感想だった。

劇的では無いが、確実に実っている。


汗を流しながら黙々と刈り進める。

誰に見せる訳でも無いが、それでいい。


もし結果が出れば、来年以降の選択肢が増える。出なければ、それまでだ。


小麦の刈り取りが終わる頃、この黒麦がどんな答えを出すのか。


それもまた、秋の結果の一つだ。

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