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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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芽吹く武器、踏み出す一歩

ベリーの件は、父上の管轄になった。

じゃじゃ芋の時と同じ流れだ。

結果を出せば認める。ただそれだけ。


今回は分かりやすい。

ベリーは増やすのが簡単で、元手もほぼ掛からない。

切って、植えて、待つだけだ。

時間さえ味方につければ、やがて広大なベリー畑になるだろう。


干しベリー。

ベリー酒。


用途も広い。

保存が利き、商品にもなる。

食糧であり、嗜好品であり、交易品にもなる。


また一つ、この領地に“武器”が増えた。

派手ではないが、確実に効く武器だ。


……だが、武器と言えばもう一つ。


そろそろ、本格的に始めないといけない。

逃げてはいられない分野だ。

最低限、身を守る力。


明日からは兄の練習に参加するか。


畑だけ耕していればいい年齢では、もうない。



「兄上!」


「ん?如何した?珍しいな。」


「今日から私も練習を始めます」


「へー!そうなんだ!じゃあ、やろう!」


そう言って兄上は、いつもの様に軽く笑った。

だが、その目は既に切り替わっている。遊びではない目だ。


木剣を手に取り、俺の前に立つ。

構えは自然体だが、隙が無い。


「まずは構えからだな。力は要らない。振り回すな。相手をよく見ろ。」


言われるがままに木剣を握る。

思ったよりも重い。

畑仕事とは違う疲れ方をする。


「よし、じゃあ来い。遠慮するな。」


踏み出した瞬間、視界が揺れた。

気付けば木剣は弾かれ、腕が痺れている。


「はは、今のは完全に力任せだな。

まあ最初は皆そうだ。」


兄上はそう言って、もう一度距離を取った。


「いいか。剣も畑と同じだ。一気に結果は出ない。毎日、少しずつだ。」


……なるほど。兄上なりの教え方だ。


こうして俺の新しい日課が増えた。

土を耕し、種を蒔き、そして――剣を振るう。


どちらも、この領地を守る為に。



朝の空気はまだ少し冷たい。

だが、動けばすぐに身体は温まるだろう。


「じゃあ、いつも通りでいくぞ」


兄の声に頷き、木剣を握る。

見よう見まねで持ってはいるが、手のひらに伝わる重さが想像以上だった。


「まずは素振りだ。形より、止めないことを意識しろ」


「はい!」


振り下ろす。

風を切る音はするが、腕がついて来ていないのが自分でも分かる。


ふん!


もう一度。


ふん!


三度目で、腕が重くなった。

いや、正確には最初から重かったのだろう。意識していなかっただけだ。


「……どうした?」


「い、いえ!」


止まるのが嫌で、無理に振る。

だが動きは鈍くなり、剣先がぶれる。


兄は何も言わず、隣で同じように素振りを始めた。

同じ木剣。

同じ動作。


なのに――音が違う。

空気の切れ方が違う。


何より、兄の呼吸は乱れていない。


……同じじゃない。


当たり前だ。

兄はずっとやってきた。

俺は、今日が本格的には初めてだ。


分かってはいた。

分かっていたはずなのに。


「休め」


その一言で、思わず木剣を下ろす。

腕がじんと痺れていた。


「最初はそんなもんだ」


兄は軽く肩を回しながら言う。


「剣はな、頭で振るもんじゃない。身体で振る。慣れるまでは重くて当たり前だ」


「……兄上は、最初から出来たんですか?」


「まさか」


笑いながら即答された。


「最初は木剣持つだけで腕が上がらなくなった。次の日、箸も震えたぞ」


少しだけ、気が楽になる。

だが、それでも差は埋まらない。


再開する。

一振りごとに、腕が悲鳴を上げる。


途中から、数を数える余裕も無くなった。

ただ振る。止めない。

兄に言われた通り、それだけを考える。


だが――


「そこまでだ」


気が付けば、膝に手をついていた。

息が荒い。


「無理するな。今日はここまで」


「……はい」


悔しさが、じわりと込み上げる。

農作業なら、多少無茶しても何とかなった。

頭を使えば、どうにか出来た。


だが剣は違う。

積み重ねた時間が、そのまま差になる。


「落ち込むな」


兄は木剣を肩に担ぎながら言った。


「お前は遅れてる。それだけだ。だが、やらないよりはずっといい」


遅れている。

その言葉は、妙に胸に残った。


「……明日も、参加していいですか?」


「ああ。逃げなきゃな」


兄はそう言って、少しだけ笑った。


剣の練習場を後にしながら、腕の重さを感じる。だが、それ以上に――


剣の世界が、どれだけ積み重ねで出来ているかを、今日ようやく理解した。


これは……簡単じゃないな。


それでも。逃げる気は無かった。


剣は、重い。

だが、この重さを知らずに領主の子でいるつもりはない。


明日も、また振る。

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