実りが告げる夏の色
何事にも集中していると、時間が過ぎるのは本当に早い。
気がつけば、真夏を迎えていた。
空は高く、日差しは強い。
それでも雨は適度に降り、田畑は一面の緑に覆われている。
素人目に見ても、今年は順調だと分かるほどだった。
畑を見回っている最中、ひときわ目を引く光景があった。
ベリーだ。
春先に狂ったように枝を伸ばし、白い花を無数に付けていたあのベリーは、今や様子を一変させている。
花はすっかり落ち、代わりに赤い実がびっしりと実っていた。
「……これは、流石に多すぎるな」
一房二房どころではない。
見渡す限り、赤い実、赤い実、赤い実。
嬉しい誤算というには、少し度が過ぎている。
このままでは収穫が追いつかない。
放置すれば、鳥や獣の餌になるだけだ。
俺はその足で父の元へ向かい、状況を説明した。
「分かった。屋敷の人手を回そう」
即断だった。
父もこの量を見れば、放ってはおけないと判断したのだろう。
こうして屋敷の使用人達の手を借り、ベリーの収穫が始まった。
ある程度はそのまま食べる分として残し、大半は干しベリーに加工する事になった。
干して保存すれば、冬場でも食べられる。
甘味が乏しくなる季節には、貴重な食料になるはずだ。
作業を眺めながら、ふと一つの考えが頭をよぎった。
「……ブドウが酒になるなら、ベリーでもいけるんじゃないか?」
思い立ったが吉日だ。
収穫した一部を酒造りをしている作業場へ持ち込み、その話をしてみる。
「ほう、面白そうじゃないですか」
作業場の者は目を輝かせた。
失敗しても構わない、試しにやってみよう、という話になった。
結果はどうなるか分からない。
だが、こうして新しい事が生まれる余地があるのは悪くない。
真夏の陽射しの下、赤く実ったベリーを見ながら、俺は静かに思った。
今年の夏は、思っていた以上に実りが多い。
さて、この実りがどんな形で返ってくるのか――それは、少し先のお楽しみだ。
人手は借りたとはいえ、それでも量が量だ。
正直、父に相談していなければとんでもない事になっていたと思う。
一つ一つ摘み取り、選別し、洗い、干す。
単純な作業の繰り返しだが、数が多すぎる。
干し場にはずらりと並べられたベリーが吊るされ、赤かった実は次第に色を深めていく。
「……これは、片手間じゃ済まないな」
本来であれば、農家が森に入って少しずつ採り、空いた時間に干す程度のものだ。
冬に備える、ちょっとした保存食。
そんな位置づけだったはずだ。
それが、この量だ。
もはや「ついで」ではない。
明確に、人手と時間を割く仕事になっている。
屋敷の者達も、最初は驚いていたが、次第に手際よく作業を進め始めた。
それでも追いつかないほどの量が、まだ畑に残っている。
「来年は……」
そこまで考えて、言葉を止めた。
来年も同じ様に実れば、今年以上の規模になる可能性が高い。
その時は、もう屋敷の人手だけでは足りないだろう。
農家を巻き込むか、専用の干し場を設けるか、あるいは別の加工法を考える必要がある。
嬉しい悲鳴ではあるが、放置すれば管理しきれない「問題」に変わる。
今までもそうだったが、量が増えるという事は、必ず次の判断を迫ってくる。
干されていくベリーを見上げながら、俺は静かに息を吐いた。
「……何でも、増えすぎると考えものだな」
だが同時に、これもまた可能性だ。
食料として、保存食として、あるいは酒として。
この赤い実が、どこまで価値を持つのか。
それを見極めるのは、これからだ。




