兆しを測る者
調査官が到着した。
朝の門前が、いつもより妙に静かだったのはそのせいだろう。
兵が整列し、使用人の動きもどこか硬い。派手さは無いが、確実に「王都の人間」が来る時の空気だ。
馬車は一台。装飾も控えめ。
だが、御者も同乗者も無駄が無い。ああいうのは慣れている証拠だ。
父は正装では無く、あくまで普段通りの領主として迎えた。
それも計算の内だろう。
過剰に構えれば、逆に「何かある」と示す事になる。
調査官は二名。
一人は記録官。年若いが、目の動きが速い。
もう一人が責任者だろう。年配で、穏やかな表情をしているが、視線が鋭い。
挨拶は簡潔だった。
王都より派遣された調査官である事。
今回の目的は、税収・生産・流通の実態確認。
あくまで定例調査の一環である事。
言葉だけ聞けば、穏やかだ。
だが「一年前倒し」で来たという事実が、全てを物語っている。
父は淡々と応じた。
今年は天候に恵まれた事。
加工施設を整えた事。
害獣被害が減った事。
どれも事実だ。
嘘は無い。だが、全てを語ってもいない。
調査官は頷きながら、いくつか質問を重ねる。
加工場の稼働時期。
倉庫の増設理由。
村ごとの保管能力。
数字は後日提出する事になった。
今日のところは、現地を軽く見るだけらしい。
視察の話が出た時、調査官の視線が一瞬、こちらに向いた。
ほんの一瞬だが、確かに。
……見られているな。
領主の息子。
年齢の割に動き回っているという話は、もう耳に入っているのだろう。
だが、今は構わない。
下手に前に出る必要は無い。
今日は父の領地だ。
俺はただの「よく働く子供」でいい。
調査官達は、領内を見て回ると言って馬を出した。
まずは加工場。次に倉庫。最後にいくつかの畑。
その背を見送りながら、静かに息を吐く。
来たか……
避けられない局面が、とうとう動き出した。
だが、まだ焦る段階じゃない。
今は、測られる側。
そして同時に――相手を測る側でもある。
この調査が「確認」で終わるのか。
それとも「介入」の前触れなのか。
答えが出るのは、もう少し先だ。




