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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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静かな訪問者

領主館に一通の書状が届いたのは、昼を少し過ぎた頃だった。

封蝋を見た父は、僅かに眉を動かしただけで、表情は変えなかった。


「王都から、か……」


短くそう呟き、書状を読み進める。


内容は簡潔だった。

王都より調査官を一名派遣する。

目的は、近年の収穫量増加、流通量の変化、害獣対策の実情確認。

滞在は数日を予定。過度な準備は不要――と。


不要なはずがないだろう、と内心で苦笑する。


王都が動くということは、数字が上がり過ぎたということだ。

税の滞りも無く、反乱の兆しも無い。

それでも来る。むしろ、だから来る。


「……エドワルドを呼べ」


控えていた使用人が一礼して下がる。


しばらくして、執務室の扉が叩かれた。


「失礼します」


「来たか。これを見よ」


差し出された書状を一読し、俺は静かに息を吐いた。


「やはり、来ましたか」


「想定内か?」


「ええ。領内の動きが静かすぎます。王都から見れば、不自然でしょう」


倉庫の整備、加工場の拡張、害獣対策の成果。

一つ一つは小さくとも、積み重なれば無視出来ない。


「で、どうする?」


「隠す必要はありません。ただし、見せる順番と範囲は選ぶべきです」


父は椅子に深く腰掛け、腕を組んだ。


「ほう?」


「まずは倉庫と農地。次に加工場。

害獣対策クロスボウは、最後です。

それも“仕組み”ではなく“結果”だけを」


父は僅かに口角を上げた。


「随分と慎重だな」


「便利な物ほど、説明は少なくした方が良いです」


調査官が何を見て、何を持ち帰るか。

それ次第で、この先の流れが変わる。


「……よし。任せよう」


父はそう言って立ち上がった。


「だが一つだけだ」


「何でしょう」


「聞かれた事には、嘘はつくな」


「はい。ただし、全部は話しません」


その答えに、父は満足そうに頷いた。


数日後。

王都からの調査官が、この領地に足を踏み入れる。


静かな春の空気の裏で、次の波が、確かに近づいていた。


調査官、か……。


内心でそう呟きながら、違和感を噛み締めていた。

本来、この出来事はまだ先のはずだった。


記憶では、王都の調査官が来たのは、

領内が完全に「大豊作」として数字に表れた年だ。

作物の量、加工品の流通、税収――

どれもが揃って“異常値”を叩き出した、その年。


だが今は、まだそこまでではない。

兆しは確かにあるが、「結果」としては一歩手前の段階だ。


……一年前倒し。


それだけでもズレているのに、当時は存在していなかった物が、今は当たり前のように並んでいる。


乾燥パスタ加工場。

段階的に整備された倉庫群。

害獣対策クロスボウによる安定した肉の供給。

蕪や不断草、じゃじゃ芋といった、脇を固める作物。そして、広がり始めたベリー畑。


どれも一つ一つは小さい。

だが、全体で見れば――

「この領地は、何かを始めている」と、外から見れば十分すぎる。


王都が反応するのも無理はない。


……原因は俺か?


前世では「起きてから対処した」事を、今回は「起きる前に潰してきた」


その結果、危機は減った。

だが同時に、変化の速度だけが上がっている。


皮肉なものだ。

未来を良くしようと動けば動くほど、

“予定調和”からは遠ざかっていく。


調査官は確認しに来るだけだろう。

だが、確認とは「判断材料を集める」行為でもある。


大丈夫だ。まだ致命的な物は見せていない。


そう自分に言い聞かせながらも、胸の奥では、確かな緊張が生まれていた。


――この世界は、もう前世の延長線ではない?

その事実を、王都の動きが静かに突き付けてきていた。

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