分ける種、分けない種
この二種類を、どう扱うか――。
考えるまでもなく、両方ともまずは俺の畑で育てるのが前提だ。
ただし、やり方は分ける必要がある。
蕪については、答えは簡単だった。
育て方も大雑把で、寒さにも強い。失敗しにくい作物なら、独り占めする意味は薄い。
「これは農家の人たちに配ろう」
畑の隅でもいい。
小麦や硬豆の合間、あるいは手が空いた場所に、片手間で蒔いてもらえれば十分だ。
本格的に育てれば量も出るだろうが、まずは“あるだけで助かる野菜”として広がればいい。
葉も根も食べられる。
冬場の食卓が少しでも楽になるなら、それだけで価値はある。
問題は、黒麦だった。
丈夫で、痩せた土地でも育つ。
雨や冷えにも強い――だが。
農家からすれば、厄介だよな。
小麦と作業が似ているとはいえ、混ぜて育てるには気を遣う。
収穫時期も管理も微妙に違えば、慣れていない作物は“邪魔”にしかならない。
規模が大きくなればなるほど、敬遠されるだろう。
「なら、全部俺の畑だな」
素人の俺が育てて、それなりの収量を出せれば話は変わる。
「思ったより悪くない」
そう感じる農家が、一人でも出てくればいい。無理に勧める必要はない。数字と結果が、勝手に語ってくれる。
蕪は広げる種。
黒麦は試す種。
そう結論づけて、俺は畑の区画を頭の中で組み直した。
まだ小さな一歩だが、選択肢を増やすという意味では、確実に前へ進んでいる。
「なに?またエドワルドが、新たな種を手に入れた?だと?」
領主の声に、報告に来ていた使用人が背筋を伸ばす。
「はい。商人から言付けが来ております」
「……どんな種だ?」
「蕪と黒麦だそうです」
父は一瞬、眉をひそめた。
「どちらも聞いたことがないな……」
「はい。私も初耳でした。説明を聞いたところ、蕪は蒔けば育つほど手の掛からない作物で、葉と根の両方を食べられるそうです」
「ほう……」
「黒麦は、小麦よりも乾燥や冷夏、痩せた土地に強いとのことですが……」
そこまで聞いて、父は腕を組んだ。
「なるほどな……」
すぐに評価は下さない。
それは彼の癖でもあり、領主としての慎重さでもある。
「まあ、言葉だけでは何とも言えん」
視線は窓の外、畑の方角へ向けられる。
「実際に育ててみて、どうなるかだな」
豊作が続く今だからこそ、新しい種は“希望”にも“厄介事”にもなり得る。
「様子を見るとしよう」
父はそう言って、静かに話を締めくくった。




