猟奇的な俺(ただの解体です)
お昼ご飯は、丸パンを割って焼いた肉と野菜を乗せ、溶かしたチーズをトロ〜と掛け胡椒をパラリ。
癖のない溶けるチーズが手に入ったのですよ! 前世じゃ買ったことのない塊で買った。日持ちするらしいので、それなりの値段するやつをホイホイ買った。牛乳もちょっとだけ。バターも買った。ホント時間停止欲しい。
その日は一旦解散とした。勢いで売って後悔されても困るしね。
晩ご飯はシチュー! 牛乳美味し。干し肉と根野菜と、蛇肉入れた。庭に居たからさ。コクシン「鳥ウマー」って言ってたよ。
翌日ラダの店に顔を出す。旅支度をしたラダが笑顔で待っていた。考えは変わらなかったようだ。まぁいいか。このままここに居ても食い物にされそうだ。
店内と自室にある、持って行きたいものを魔法鞄に放り込んでいく。庭の薬草も摘んでおいた。トキイ草以外は使用方法間違えるとやばいやつなので、燃やしておく。
魔法鞄のことを説明し登録するように言ったのだが、拒否された。もう入れちゃったよ? 自由に出せなくなるんだよ? そう言ったのだが、「なんか怖い」とかビビってた。大きな商会だったのなら見たことあるんじゃないのか。
よくよく聞くと、商品がたくさん並んでいるのを見るのが好きで(でも1つ1つには関心がない)、商人になりたいと思ったらしい。売ってる人すごいとか、交渉する父様かっこいいとかじゃなかった。
そんなわけで、商業ギルドで店を売り、その一部で馬を買う。薬店だと言ったとき、応対してくれたお兄さんがなにか言いたそうな顔してたけど、気付かないふりしといた。他にも売りに出された薬店があったのかもしれない。
そういえば、コクシンは思うところがないのかと聞いたら、寂しそうに、「私にできることはない」と言った。
昼過ぎには街を出た。ラダは冒険者登録しないことになった。ちなみに薬師に資格とかない。
カッポカッポと馬がゆく。馬に乗りながら、ラダがあわあわしていた。乗ったことなかったらしい。さいわいいい子が買えたので、暴れなければ勝手に運んでくれる。跨がろうとしたときまで乗ったことがないことに気づかないとか、ラダはラダである。
ラダの馬はコクシンのと同じ黒鹿毛だ。ただ耳が大きくて、なにかロバが混じってそうな顔をしている。名前はツクシ。オスだ。
「次の街で領が変わるんだよね?」
「ああ」
「領が変わると、なにか変わったりするの?」
「さぁ。私は出たことがないし」
ラダは…ダメだな、話できそうにない。それに知ってるわけがない。
今後あの街はどうなるのだろうか。俺の妄想に近いことが起こるんだろうか。それとも、誰かが咎め正常になるのだろうか。
まぁどうでもいい。
正直、正義感なんてものは俺にはない。降りかかる火の粉は振り払うが、消火に向かおうとまではしないだろう。
ラノベのように、いつの間にか権力者が味方についてて街を救ったり、助けた女の子が王女で王族と仲良し…なんてことにはならないのだ。
俺は平々凡々な7才児。逃げれるなら逃げます。
「ひぇぇ」
ラダの腰が引けていた。俺が鹿を捌いているのを見て、キャーキャー言ってる。俺たちに同行するなら、これぐらいは慣れてもらわないと困る。何しろ市販の肉を買う気はあまりないからね。
「はい、これが心臓。魔物ならこの近くに魔石があるんだ」
ズルリと取り出した血まみれのそれ。まだ温かい。「持ってみる?」と聞いたら千切れそうに首を振って拒否した。まぁこの行為自体はコクシンも白い目で見ているけども。
別に猟奇的に見せたいわけでも、冒涜してるわけでもない。ただ自分の中にどういう器官があるのかって、知ることは大事だと思う。それが作る薬に影響するかは、分からないが。
回復薬でたいてい治る…というのが一般的な考え。ただ頭痛薬とか下痢止めとか、ピンポイントに効く薬がある。ということは、どこがどうなってこんな症状になってる…という知識はあると思うんだ。それとも、たまたまそういう効果のある薬草があったから、作ったんだろうか。調剤のスキルが作用してるだけで…。いや、そうだよなぁ。薬草自体不思議物質だし。薬飲んで手足くっつくとか、意味分かんないよな。
「レイトレイト、それ止めない?」
「え?」
ちょっと思考の海に潜ってたら、コクシンから苦情が来た。うむ。ボーッとしながら心臓ニギニギしてるのは頂けないな、たしかに。俺でも引くわ。
「ごめんごめん。で、これが腸で」
ずるー
「ふぇぇ」「……」
ごめんて。解体授業はこれで終わるから、そんな怖い目で見ないでよ。必要なことよ? ぶっちゃけさぁ、討伐依頼に、〜の目玉とか〜の睾丸とか〜の毒袋とか、あるのよ? 魔物の体は資源なのよ?
ドン引きされたので、あとは黙々と解体を済ませる。角も大きいサイズなので売れそう。皮は…売れるな。コクシンが一撃で首落としたからな。肉の半分は葉っぱに包んで魔法鞄に放り込んでおく。
「そういえば、ラダ。聖水って作れる?」
ふと思い出した、ばぁちゃん情報。聖水って浄化作用があるんだって。卵に使って、生卵食えないかな…。
「聖水は…作れるけど作れない」
「なにそれ。材料ないってこと?」
「それもあるけど、あれ、教会関係者しか売っちゃいけないんだよ。師匠に何回も言われた」
「うへぇ。利権の闇が見える…」
たしかに名前からして教会にありそうなものなんだけどさ。卸値と売価が違ってそうで怖いな。
「…ん? 売らなくて自分で使うならオーケー?」
「え? え、どうなんだろう…」
ラダが首を傾げる。
「なんでいきなり聖水が出てきたんだ? あれは騎士団でもそうそう買えない高価なものだぞ」
コクシンの言葉に「マジで!?」と思わず声を上げてしまった。じゃあマズイか。聖水に卵浸けるとか、あちこちから非難轟々案件か。
「レイト。何するつもりだったんだ?」
落ち込んだ俺を見て、コクシンは何か察したようだ。声ちょっと低くなってるよ? やだ、こいつまたなにかやらかそうとしてるって目で見てる。
「いやさぁ、聖水って浄化作用があるんでしょう? だからさ、食べ物浄化できたらいいなって思ったんだ」
「…食べ物を? 消すってことか?」
あーうーん。雑菌とか寄生虫とかそういう概念ないんだよなぁ。ただ代々、これは生で食べてはダメ、みたいな感じなだけで。
聖水=キレイに消しちゃうってイメージかぁ。
「例えばさ、卵って生で食べられないだろ?」
「そうだな。焼いて食うものだ」
俺はゆで卵も好きよ。…っていうか見たことないな。あれ? 茹でないのか?
「それはだいたい、古かったりするから生で食うなっていうのもあるんだけど、殻とかに雑菌が付いてるからでもあるんだ。火を通せば雑菌は死ぬからね」
「ざっきん」
「なんて言ったらいいのかなぁ、目に見えない人体に悪影響を与えるもの、かな」
「呪いのこと?」
ラダ、違うんだよなぁ。そう言ったほうがわかりやすい? でもそうすると呪われてたもの食べるってことになるよな。なんて説明したらいいんだ?




