砂糖を作ってみる
「んん?」不意にコクシンがくぐもった声を出した。振り向くと、虚空を見つめて呆然としている。これはあれかな。
「なにか増えてた?」
そう。ステータスを見ているときの様子だ。
「ああ…。魔力操作が表記されていた」
「へぇ。すごいじゃん。もっと使いやすくなるかもね」
同時にスキル追加とか、気が合うねぇ。
「うむ。これのおかげで精度が上がったのかもしれんな。レイトのように色々できるようになるかな?」
「どうだろう。俺のは結構邪道というか、自己流が過ぎるというか、よく呆れられるからなぁ」
「よく分かっているな。だが、便利ではある。誰も考え付かなかっただけで、“使える”ということは“有り”ということだろう」
そうだろう。見たことも聞いたこともないものは再現できないし、想像もしない。なんというか、こういうものっていう固定観念があるのかな。
「ふふふ。実際に増えると嬉しいものだな。俄然やる気が出てきた」
コクシンはやる気満々だ。成果が目に見えるってのはいいよね。
冒険者ギルドに戻り、依頼達成の報告をする。ついでに採取したトキイ草も納品しておいた。ニッツの街のギルドと同じことを言われたが、笑っておいた。いちいち説明面倒です。
シューガーのことを聞いてみた。なってるのは確認してるけど、食用にはならないし、薬師も買い取らない。それ以上の情報はなかった。
やっぱり、鑑定ヤバいな。
馬に会いに行く。準備が完了したので、いつでも連れていけると言われた。天気が良ければ、明日出発ということになった。
そういえば『天気予想』なんていう、スキルがあるそうだ。農家や船乗りなど、天候に左右される職業の人たちが得ることがあるらしい。雲とか読んでたら、俺も取れるのかなぁ。
砂糖を作ってみる。
とりあえず、鍋いっぱいに潰したシューガーの果実をぶち込む。水を足すべきか迷ったが、内包している水分で大丈夫そうだ。グツグツ煮ていくと、どんどんアクが出てくる。それをせっせと除去する。
「見た目が悪いな…」
そばで火の番をしてくれているコクシン。そうだねぇ。赤黒いもんね。それでいて匂いは味噌なんだよ。わけわかんないね。赤黒い砂糖になるのかな。
1時間ぐらい煮込んだ。
色が抜けてきた。色素は熱に弱いのかな。ついでに味噌の匂いも飛んだ。かわりにほのかに甘い香りが立ってきた。
ここで濾すことにした。別の鍋に布を張り、ゆっくり注いで濾していく。種のツブツブはほぼそのまま、果実は溶けていた。
濾した液体をさらに煮詰める。
1時間ぐらい煮込んだ。
「こんなもんかな」
ほのかにピンク色をした、しっとりとした砂糖が出来上がった。乾燥させれば、市販の砂糖とそう変わらない見た目になりそうだ。いや、ちょっと粒子が大きいかな。
「んっ」
指に付けて舐めてみると、優しい甘さが広がった。コクシンにも勧めてみる。
「普通に美味いな。鍋いっぱいでこの量か…」
悩まし気な顔。
鍋いっぱい、2時間以上かかってコップに1杯分。これが多いのか少ないのかはわからないけど、自作でいくらでも作れると言うなら、儲けものではないだろうか。砂糖高いし。あとは料理とかに使って、違いがないか試してみよう。
あれやこれやしていたら、出発が昼過ぎになった。特に見送りはない。ドアさんとは、馬を引き取ったときに挨拶しといたからね。
そういえば、冒険者ギルドで噂を聞いた。例のギルド長、賄賂を受け取っていたらしい。ポイントを多めに加算したり、不祥事をもみ消したり…。職員も何人か甘い汁を吸っていたらしく、今度本部から監査が入るのだとか。
まぁもう、どうでもいい。
ポッコポッコと軽快に馬たちは進む。特に指示しなくても、道なりに進んでくれるので楽だ。が、やっぱり乗り慣れていない俺にはつらい。腰とか尻とか内腿とか、普段使わない筋肉が悲鳴を上げている。
よくよく考えたら、馬は友達だったけど、俺は乗ってはいなかったんだよな…。農耕馬だったし、家に居たの。
コクシンはスキルがあることもあって、様になっているし疲れも見せていない。着飾って白馬に乗ればさぞかし映えるだろう。本人嫌がるだろうけど。いや、クロコもカッコいいのよ。目がキリッとしたクールっぽい子だ。ちなみに俺の馬、ブランカはギョロッとしたどんぐり眼のおっとりさんだ。
時々休憩がてら足を止め、採取しに森に入る。馬たちは繋がなくても大人しく待っていてくれる。いい子たちだ。こんなに頭がいいのに、主人に恵まれなかったとは。
ベリーがたくさんなっていたので、ジャムを作ってみようと思う。パンケーキを作ろう。ベーキングパウダーとか卵とかないけど。出来るんじゃね? ファンタジーだし。膨らむ膨らむ。
それだけだと腹は膨れないので、肉も用意する。といっても、買ってきたチャーシューぽいやつを切っただけだけども。味付けは謎だが、美味しかったのでいくつか買ってきた。
あとは野菜を適当に。
魔法鞄をゲットしたとき、チートキターー!って思ったし、今でも重宝してるけど、やっぱり時間停止は欲しいなって思う。次元魔法なるものが存在していることは分かったので、どうにかゲットしたいと思っている。時間魔法もあるのかもしれない。
「見た目イマイチだけど、食えるな」
パンケーキもどきベリージャム乗せは普通だった。ちょっと膨らんだけど、パンケーキというよりかはナンだった。うむ。前世の俺はミックスを使っていたからな。みんなよく地球飯を再現できてるなぁ。
「おいしいけど、夕食にはどうかな」
コクシンも食べてくれてはいるが、肉を挟んでいる。
「そうだね」
何ならジャムをワインで煮詰めて、肉に掛けるのとかどうだろう。ま、瓶詰めして置いとけばいいか。
しかし、砂糖は普通に使えるということがわかった。まだシューガーの実は残っているので、時間があるときに砂糖にしてしまおう。
寝るまでの間は、ゴリゴリと調剤する。スキルに頼らない素人調剤だが、これまでも割と役に立ってきた。小瓶をたくさん買ってきたので、色々作り置きできる。使った眠り薬を補充して、胃腸薬、初級回復薬、爆発薬、目潰し、ラー油、毒薬を作っていく。え? 変なの混じってるって? 気の所為気の所為。
回復薬の残り滓はお馬さんたちに食べさせる。ドアさんに聞いたら野生でも飼育下でも、トキイ草は食べないって言ってたけど、うちの子たちは食べる。決して美味しそうではないが、体調が良くなると実感しているようだ。




