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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十四章

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629話 不思議なやり取り

ひとまず雨妹ユイメイは部屋の隅に寄って深めに頭を下げておく。

 女官はそんな雨妹の姿なんて目に入らないようで、視線も寄越さずに、しかし床の散らかった室内を一瞬不快そうに見やってから、ツカツカと入ってきてあの女性の前に立つ。


「お探ししていたのですよ? お身体に障りますゆえ、戻りましょう」


どうやらこの女性を探していたらしい女官が、心配するような声で優しく声をかけた。雨妹が室内で空気になるべく努めながら様子を眺めていると、女官はぼうっと立っている彼女の肩に両手を置く。


「ああ、皇太后陛下がご心配されましょうね?」

「……!」


女官がそう述べた途端、女性がビクッと身体を震わせ、少し良くなったと思った顔色がまた悪くなった。ひそめてもいない声であったので、その言葉は雨妹の耳にも聞こえたのだが、うっかり身動きしないように最大限我慢しながらも、全身が耳になったような心地になる。


 ――また皇太后陛下かぁ。


 花の宴に起きた東国兵襲撃事件の後、東国兵を引き入れる原因を作った責任で後宮を出され、尼寺行きとなった皇太后は、もう表舞台に立つことはない。


『皇太后陛下の了承がないと、怖くてなにも出来ないのですって』


雨妹を皇后宮の門前まで出迎えた際のウーの言葉が、雨妹の脳内で再生される。皇太后の名が、この皇后宮ではまだ現役で影響力があるらしい。


「さあ、お連れしてちょうだい」


そして女官が連れていたお付きに命じると、お付きは女性を優しく支えるように、それでいて拒否させる気がないように促す。雨妹が顔を伏せつつも上目遣いで必死に様子を窺ったあの人は、下を向いて引っ張られるままに歩いて行った。

 結局女官もそのお付きも、雨妹の存在に目も向けないままである。

 こうして誰もいなくなってから、雨妹はようやく頭を上げた。


「ぷはぁ~!」


いつの間にか息まで止めていたようで、雨妹は大きく深呼吸をする。皇后宮付きではない一般の下っ端宮女は、あの女官にとって存在しないものであったようだ。まあ、妙な難癖をつけられるよりもその方がいい。


「けど、嵐みたいだったな」


なにより色々と情報が多かった。一仕事を終えたかのような心地であるけれど、雨妹はボーッとしている暇はない。何故って、掃除はまだ終わっていないからだ。

 というわけで、床に散らかしたままの剥がした装飾をそのままで使えそうな物、ちょっと手入れが必要な物、ごみになる物とに仕分けしていく雨妹であったが、やはりどうしても先程のやり取りのことを考えてしまう。


 ――あの幽鬼みたいな人は、皇后陛下だったのかな?


 雨妹とて結構最初の方に薄々その可能性を考えてはいたが、そうだと断定できずにいたのは、雨妹が知る皇后の姿とはあまりに違っていたからだ。

 皇后の姿は、花の宴で遠目に見たことがある。その時はもっと「私は皇后だ!」という態度で堂々としていて、あんな病的ではなかったように思う。先の花の宴から今までに、皇后に一体なにがあったのか?

 それにその皇后に対して言葉は丁寧であっても、態度が見下しているようであったあの女官も気になる。あの人がひょっとして次席女官、かつての筆頭女官だろうか? だとすると、嫌な予感がプンプンするのだが。


「それにあの匂い、なんだったっけかなぁ~?」


頭は他の事を考えながらも手はしっかりと動かすという、器用なことをしていると無事に仕分けは終わった。仕分け済の物を庭園側の回廊に一旦出してしまえば、仕上げの掃除をするのは慣れたものですぐに終わる。

 こうして無事、室内はあの居酒屋兼ホストクラブ風から無事に脱して、本来の姿を取り戻した。


「ふふん、これでどうよ!」


雨妹が我ながら見違えた部屋の様子に一人得意げに胸を張った、その時。


「雨妹、掃除は順調か」


先程あの女官が現れた出入り口から、今度はイェン女史が顔を出した。

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― 新着の感想 ―
匂いかぁ。 ここまで仄めかすからには何かの薬物が絡んでるのは間違いないのだろうが、雨妹は阿片のにおいは知ってるはずだから、そうすると自然由来だと大麻草が候補に挙がる。でも大麻は甘ったるい匂いで刺激臭と…
更新お疲れ様です。 何か嫌な感じの方ですねぇ・・・w 嘗て皇太后の下で皇后を立てる振りをしながら好き勝手してた方の様に見えますが、もしかして帝や呉女史にとっては、この人も最終的には『お掃除対象』だっ…
>先の花の宴から今までに、皇后に一体なにがあったのか? 確か、青髪ハンターな息子から捨てられましたよね? 皇后様。
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