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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十三章 新たな後宮模様

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618話 家で落ち着く

「はぁ~、長い一日だったぁ」


雨妹ユイメイ立彬リビンに送られて帰宅すると、時刻はちょうど夕食時であった。そのため、宮女たちがそれぞれ食堂に向かったり、仕事終わりをくつろぐ姿で通りは賑わっている。


 ――どんなに疲れていても、この時間になると別の元気が湧いて来るんだよね。


 仕事の元気と楽しむ元気は別物という奴だ。


「はぁ~、お腹空いてきた」

「ついさっき間食したばかりだろうが」


雨妹が荷車から三輪車を降ろしながら零すのに、立彬からチクリとされてしまう。


「ぶ~! あれはもう消化されました!」


このように雨妹が立彬とやり合っていると。


「お帰り、雨妹」


会話が聞こえたのだろう、目の前の雨妹の家の台所から現れたのはヤンである。


「立彬様もご一緒でしたか」


楊が立彬に礼の姿勢をとる。彼女は雨妹が「ちょっと貴妃宮とイェン淑妃宮に行ってきます」と仕事を休む際に話したので、心配して待っていたのだろう。


 ――皆、優しい……!


 今絶賛優しさ沁み沁み期間中な雨妹は、目元をウルッとさせてしまう。


「おやおや、どうしたんだい?」

「お気になさらず、情緒不安定なだけです。しばらくすれば治るでしょう」


急に涙目になった雨妹に眉を寄せる楊に、立彬がため息を吐きながら教えている。


「ふふ、なるほどねぇ?」


途端に楊が同情する眼差しになるが、これは伊貴妃についてなにか知っている感じである。この楊は侮れない情報通なのだ。


「それで、事は上手くいきそうなのかい?」


楊も事の経緯が気になるのだろう、そう尋ねてくる。これは珍しく、雨妹がチェンと一緒に皇帝陛下から頼まれたお仕事であるので、雨妹の上司である楊が心配するのも無理はない。


 ――というか、今更だけれどこの点について違和感があるな。


 雨妹はこれまで、杜から頼まれごとをされることはあっても、皇帝の名で呼び出されて依頼されることはなかった。皇帝の名で行われたことは記録されてしまうから、父は雨妹を政治に巻き込まないように配慮しているのだろう。

 それなのに今回のこれは、皇帝からの頼まれ事である。つまり、燕家を動かすには密やかな行動では駄目で、大義名分がいるということなのだろうか? 考えることがいっぱいあり過ぎて、雨妹もそろそろ知恵熱が出そうになっていた。

 こういう時は、一人で考えないことが大事である。

 というわけで、


「楊おばさん、これから一緒に夕食をどうですか?」


唐突な雨妹からの誘いに、楊が微かに目を見張ったが、すぐに目を細めてきた。


「そうだねぇ、夕食を一緒にしながら話を聞いてやろうじゃないか」


どうやら察しの良い楊は雨妹の情報整理に付き合ってくれるらしい。後宮生活が長い人の視点が貰えるのは助かる。


「立彬様も、ご一緒にどうです?」


さらには「逃がさないぞ!」という気持ちを込めて立彬に目をやった。雨妹が最初に相談という名目で巻き込んだ立彬も一蓮托生と言えるだろう。


「……付き合おう」


というわけで。

 食堂から料理を調達してきて、雨妹の家で夕食会兼、第二回雨妹相談会をすることになった。他人が大勢いる食堂で出来る話でもないし、立彬はさすがに食堂で存在が浮くからだ。

 雨妹は食堂から運んできた料理を並べ、小鍋で貰ってきたタンを竈で温め直す。


「美味しそう~♪ 鳩肉の湯らしいですよ。どこかの宮から鳩肉がたくさん流れてきたんだとか」

「宴が取り止めにでもなったのだろう。けれど都で鳩肉は珍しいのだがな」


器に湯をよそう雨妹を手伝う立彬が、雨妹の話を聞いてそのように予測しているが、彼も鳩はあまり口にしないらしい。雨妹もこれまで口にしていないので、鳩肉料理は地方の郷土料理なのだろう。

 日本でも鳩を食べる文化がなかったものの、他の国では栄養価が優れている高級食材であった。けれど生憎、前世の雨妹は華流ドラマ旅でも鳩肉料理と巡り合わなかったので、前世から通算してもこれが初の鳩肉料理である。


「台所番の誰かが好物で、伝手を頼って貰ったんじゃないかい?」


雨妹たちの会話が聞こえた楊が述べた考えが、おそらくは正解だろう。食堂が合併されて広くなったことで、増えた台所番たちの故郷の味も様々となったのだ。


「なにはともあれ、いただきましょう!」


というわけで、早速鳩肉を実食である。


「ん~♪ 鳩肉の湯、肉汁たっぷりで美味しいです!」


肉はトロトロに柔らかくなっていて、湯に染み出ている鳩肉の旨味が濃厚だ。


「いい肉だな、これは宴で主役の料理に使う食材だったのではないか? よく宮女たちに卸したな」


雨妹と違って上品な仕草で湯に口をつける立彬が、若干訝しむ顔である。


「この鳩肉を引き当てた料理番はそうとう粘ったんだろう、根性あるねぇ」


楊もそのように感心しながら、湯の味を楽しんでいた。

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