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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十二章 国主の一族たち

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519話 いいことを思い付く

 リフィとジャヤンタは、互いに劣等感を抱き合っていた。

 お互いを大きく見て、勝手に敵だと思っていたのだ。

 本音で語り合うことができれば、きっとかけがえのない仲間になれたであろうに。


 ――商人連合が上手だったっていうことかもね。


 「敵の敵は味方」とならないように、リフィとジャヤンタを仲良くさせまいと立ち回られたのだろう。

 雨妹ユイメイはこのように王太子襲撃事件の真相を想像してしまったものの、ジャヤンタはまだ人生の折り返し地点にも到達していない年頃だ。

 生きやすい場所はこれから探せばいいし、作ればいいのである。


「そうだ! ジャヤンタ様、ここは崔ですし、崔の神様に祈ってみるのはどうでしょうか?」


雨妹は我ながらいい考えだと思い、前のめりになる。

 崔では神様だって、戦を得意とする神仙から平和を愛する神仙まで、色々といるのだ。

 人々は別に廟や寺に寄付をせずとも、日々の生活の中で神仙に祈っているので、金銭はお祈りに必須ではないし、「異国人が祈っては駄目だ」というような心の狭い事も言われないように思える。


『崔の神か……』


だがこれに、ジャヤンタはあまり気乗りしない顔である。

 隣国なので、これまでに揉めた歴史もあるであろうし、そこの神様について微妙な気持ちなのかもしれない。


 ――崔の神様って、宜では悪神になっているのかな?


 ありそうなことだが、雨妹にはまだ次案がある。


「もし崔の神に思うところがあるのならば、夜に窓から見える星に祈るのはどうでしょう?

 昔旅の人から聞いたのですが、どこぞの国ではいくつかの星を繋げて見える形を、神に見立てているのですって」


雨妹はこれまで星座にまつわる話を聞いたことがないが、きっと天の川的な星々や言い伝えだってあるだろうし、星座だって誰かが考えていると思うのだ。


「星に国境はないですから、色々な国の民の元へ祈りが届くでしょうね」

「へえ、なんだか楽しい話だね!」


この話にジャヤンタではなく、屋外活動が大好きな友仁ユレンが食いついた。


 ――星座ってなんだかロマンがあるもんね!


 今度、友仁と星座を作ってみるのもいいかもしれない。

 そして後世に言い残して、ちゃっかり神様を増やしてしまうのだ。


『星に祈るとは、考えたこともない』


楽しそうにする友仁とは逆に、ジャヤンタは驚くばかりである。

 雨妹としては前世でも、星を神に見立てることはよくあったことだと思うのだが、もし宜が国の過去の偉人を神に見立てているのだとしたら、自然を崇拝するような想像力が働かないのかもしれない。

 だが嫌悪感があるわけでもない様子のジャヤンタに、雨妹はもう一押しする。


「星ではなく、あのお日様に祈るのもありです。

 いかにも力強くて、助けてくれそうでしょう?」

『確かに……』


雨妹の言葉に、ジャヤンタが窓から青空を見上げた。

 そうして素直に気持ちを表に出しているジャヤンタは、最初の印象よりも若く見える。


 ――この人って怒っていないと、案外可愛い顔をしているかも。


 雨妹はこれまで、ジャヤンタのいつも不機嫌にしている顔ばかりを見ていたが、今こうして怒っていないから気付いた新事実だ。

 ひょっとして舐められないように、わざと怖い顔を作っているのだろうか?

 そんな風に雨妹の思考が逸れて、ほんわかした気持ちになっていた、その時。


「……よ!」


窓から吹き込む風に乗って、騒がしい物音と声が聞こえてくる。


「……!」


その声を聞いたジャヤンタが、怯えるようにビクリと肩を跳ねさせた。


 ――なんだろう?


 とりあえず雨妹は呂と共にジャヤンタを窓から離して、念のために身を隠させ、胡霜フー・シュアンが友仁の前に立ちはだかるようにして守っている。


「何事か?」


明が戸を微かに開けて、外に待機していた立勇に尋ねた。


「侵入者を捕えましたが……」


すると扉の外から、困惑した立勇の声が聞こえたかと思ったら、


「放しなさいよ、無礼者!」


遠くから響いてくるその声に、雨妹には聞き覚えがある。

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