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12.???「ああ、がああああああ!」


「きゃあ、あああああああああああ!」

「リア!!」


 上がった悲鳴に、リアの名を叫ぶ。


「魔王ォ! 何をした!?」

「なに、これが私の力だからな」


 魔王カリシルペスは余裕の構えを崩さない。


 うすらと笑んだ口元から血のような赤が覗いた。


「ま、まさか! ダメ! リア!」


 背後から、マホの悲痛な叫びが聞こえた。


「ああ、あああああ、あああああああああ!」


 大きく叫んだリアの顔に、どんどん血管が浮き出てきているのが分かる。


 白い肌に赤と青の筋が浮かぶ。


 これは、まさか。


「魔物化か!?」


 私は駆けだしていた。


 魔王カリシルペスから背を向け、二人の元へ。


 そして、マホを抱えるとそのまま二人を大きく引き離した。



 その瞬間、リアが苦しむように腕を振り回し、それから振り下ろした。


「あああ! がああああ!」


 ゴッと、鈍い音を立ててリアの腕が地面を打つ。


 華奢な彼女では考えられない力強さで振り下ろされた腕は、土しかない地面をえぐった。


「そんな……」


 腕の中のマホが震える。


 私は一度、抱きしめる腕に力を込めると、マホをリアから離れた場所に降ろした。


「マホ! しっかりしろ! リアを救えるのは私たちだけだ!」


 魔のついたリア、魔リアを正気に戻す方法があるとすれば、それは元凶である魔王カリシルペスを倒すことだろう。


 鑑定の目と優秀なサポートを失った我々は、それでも魔王カリシルペスを倒すしか道はないのだ。


「う、うん! ごめん、メキシー! リア、必ず助けるから……」


 ハッとしたマホは、そう言って再び魔法と魔法陣の構築を始めた。


「魔王、許さん」

「は、威勢がいいな、人間。私の前に仲間をなんとかしたらどうだ」


「ああ、ああああ! あああああああ!」


 叫ぶ魔リアは、私たちを敵とみなしているようだ。


 赤く充血した目と目が合う。


 私は短く舌打ちし、魔リアの注意を引き付けるためにマホとは離れ、私は魔リアのほうへと走り出した。


 一度、魔リアには気を失ってもらうしかない。


 魔リアに肉薄し、私が剣の握りを振り上げようとした時だった。


「にゃっ」


 猫殿の短い声がした。


 まさか、魔王カリシルペスが猫殿に何かしたのかと思ったとき。


「あ! きゃあああああ!」


 目の前の魔リアが甲高い悲鳴を上げた。


 それまで、うめき声しか上げなかった彼女の変化に、振り上げようとしていた腕を無理やり止める。


 タンっと短く跳んで距離を取ると、悲鳴を上げたリアは、驚いた顔のまま、ゆっくり自分の両手を見た。


 その顔からは浮き出ていた血管も、充血していた目も、本来の人らしいものに戻っていっていた。


 時が巻き戻されたような状況に、私は呆然とするが、魔王カリシルペスの悔しそうな声を聞いて我に返った。


「嫌な能力だな、猫よ。魔物化しないと思えば、仲間にまで効果を及ぼせるのか」

「にゃ!」


 その言葉に、私は今起きた状況をやっと飲み込めた。


 猫殿が助けてくださったのだ。


「リア、無事か!?」


 最低限の距離を保ち問いかけると、リアからコクコクと頷きが返ってきた。


 意識ははっきりしている。


 リアの目は開かれ、自分の身に起こったことをその祝福を受けた金の目で鑑定したようだった。


「魔物化の状態異常をかけられましたが、勇者様がスキルのワクチンの効果を、私たち全員に広げてくださったようです」

「スキル"ワクチン接種済み"の"全体化"か!」


 リアの金の瞳は強い輝きを持ち、そして我々をかばうように前に立った猫殿に向けられた。


「にゃ」

「小動物ごときに、なにができる」


 猫殿と魔王カリシルペスが向かい合う。



 魔物化を防げたことは僥倖だ。


 しかし、窮地を脱しようとも、魔王カリシルペスの実力は本物。


 非力な子猫である猫殿にどうにかできる存在ではない。



 私が、やらねば。


「マホ! 魔法を! リアは支援を頼むぞ!」

「うん!」

「はい!」


 私が二人に声をかけ、再び魔王カリシルペスへと立ち向かおうとしたそのとき。


 猫殿が、ゆっくりとその背を持ち上げ、威嚇の体勢をとられた。


 あまりにゆっくりとしたその動きに、動き出していた私も思わず立ち止まってしまう。



 これまで、蛇以外には軽い威嚇しかしてこなかった猫殿の口から、「フシューッ、シューーッ」と、強い威嚇音が出ている。


 膨らませるように体を大きく見せ、立ち上がったしっぽはブワリと膨らむ。


 顔の位置を低くし、鋭くしたその目は、魔王を捉えて離さない。



 そして、魔王の目の前、ゆっくりと左右に動きながらその距離を徐々に詰めていく。


「猫殿……、さすがに、無茶だ……」


 猫殿のあまりの剣幕に、背後の私まで冷や汗が伝う。


 猫殿から発せられる覇気は尋常ではないが、猫殿と魔王カリシルペスでは、その体の大きさは何十倍にも違っている。



 無茶な特攻を止めるべきかと、私が思考を巡らせながらも、動けなかったそのとき。


 猫殿が、白い光を放ち始めた。


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