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軌道砲兵ガンフリント  作者: 冴吹稔
episode-1:故郷に平穏あれ(May you be in peace)

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未知なる敵

 掲げよ!

 

 砲を(Guns)! 砲を(Guns)! 砲を(Guns)! 砲を(Guns)

 

 凍てつく宇宙(そら)に 灼熱の太陽風(かぜ)

 背に受けて旅立つ 

 Faraway――遥か星々の果て!


 胸に記す 銀と緑は

 愛と誇りを刻んだ故郷

 鋼の腕が 繋ぎとめるは

 永遠(とわ)の祈りと明日の夢


 非道の敵を 撃てよ(いかづち)

 燃えるプラズマ 神の(つるぎ)

 

 立てよ いざ立て友よ 共に往かん

 光満ちたる闇を越え 前進せよ軌道(Orbit)砲兵中隊(Gunners)



         ※「栄光の軌道砲兵中隊」 

          作曲 アイリーン・ミラー/ 作詞 ウィリアム・レイコック


         (「内惑星統合軍愛唱歌集・2198年版」より)



         * * * * * * *


 基地司令部のゲート前。出迎えに整列した軍楽隊の合唱が、クルベの度肝を抜いた。

 美辞麗句を並べた勇壮な歌詞――これではまるで、英雄の凱旋のようではないか?

  

 天井の高いその区画に響く楽曲自体も、いささか異様だ。行進曲風でありながらときおり変則的な拍子や、ロックバンドの生演奏(ライブ)を意識したようなブレイクが挟まる。どちらかと言えば――


活劇番組(アニメ)の主題歌かなにかと間違えてないか……)

 クルベのこめかみあたりに妙な汗が伝い落ちた。とはいえどうやら司令部は歓迎ムードのようだ。

 

「おどおどしてないで背筋を伸ばしなさい、クルベ中尉。私たちにボストン遭難の責任はないのだから」

 後ろを歩いていたタカムラ大尉が小さな声で注意した。

 

「それはそうですが、最高責任者じきじきのお呼びともなれば、少なからず緊張はしますよ」


「緊張しているとは思えない格好になっていましたよ」


 いささか挙動不審な様子になっていたらしい、と気づいてクルベは膝と肩に力を入れた。だが両人ともに代謝抑制剤(ハイバネイター)を長期使用したツケや、もろもろの低重力障害から、どうにか回復したばかりだ。1G環境では足腰がまだ軋みをあげるような気がする。 


 火星軌道ステーション『シルチス』に収容されて一週間。クルベとタカムラ大尉は、基地司令官ウィリアム・レイコック大佐による出頭命令を受けていた。 



「タカムラ大尉、クルベ中尉。ご足労だった。かけて楽にしたまえ」

 

 明るめのグレーで統一された執務室は、調度品の少なさのためかひどく殺風景に見える。レイコック大佐は五十前後の痩身の男で、ナス形の黒いレンズを嵌めたサングラスをかけたまま外さなかった。

 

「まずは礼を言わねばならん。君たちのおかげで、我が機甲師団は無事に『センチュリオン』四機を受領できた――初っ端からRK-303(レールガン)を補修させられて、タチバナ技術大尉はぼやいていたがね」


「その件については――」

 軌道砲兵の操典に、モジュールによる白兵戦など含まれていない。クルベは相応の叱責も覚悟していた。

 

「ああ、謝罪などするな。不可抗力だったのだろう? 大まかな状況は報告書で把握している。これは査問会のような堅苦しいものではない。君たちへの訓示と、情報共有のためのミーティングと考えていてくれたまえ」

 大佐は口元をゆるめて微笑んだ――が、次の瞬間その唇は固く引き結ばれ、声のトーンも一段低いものに変わった。

 

「ボストンの遭難についての確認から始めよう。くだんの事故が発生した時、君は居住ブロックで仮眠をとっていた――そうだな?」


「おっしゃる通りです」

 ボストンの乗組員は六人で交代に当直(ワッチ)についていた。勤務は十八時間づつで、入れ替わりながら常時二人が操艦ブロックに待機して突発事態に備えていたはずだ。


「ですが……あれ? おかしいな」

 クルベは奇妙なことに気が付いた。そのシフトだと、事故の際居住ブロックにクルベとタカムラ大尉しかいなかったことの説明がつかないのだ。

 

 そのことを指摘すると、レイコック大佐はうなずいた。


「簡単なことだ……このシルチス基地にはボストンとの通信記録が残っている。それによれば彼らは事故の直前、全員が操艦ブロックに集まっていたのだ――君たちを除いて」


「それは――何のためです?」

 タカムラ大尉が顔をしかめた。ボストンのような百八十メートル級の輸送艦では、操艦ブロックはごく狭い。六人全員が詰めていては、何をするにもお互いが邪魔になるだけだ。

 

「確かあそこには耐Gシートが四つしかありませんでした。覚えています」

 大尉がわずかに顎を引いて視線を落としたのが見えた。


「だが彼らはそうした。君たちもすぐに呼ばれるはずだったが、それは果たされなかった。直後に衝突が起きたからだ」


 大佐が『事故』という言葉を使わなかったことにクルベは違和感を覚えた。

 

「その時の通信が残っていた、という事ですね。内容を知ることは許されていますか?」


「ああ、問題ない。……彼らは高速で接近してくる物体に気づいたのだ。それは当初、ボストンに並走するコースをとっていたという。そして通信開始から十五分後、『衝突する!』という一言を最後に連絡が途絶えた。あとで直接、記録を視聴するといい」

 

 クルベは背筋が寒くなるのを感じた。ボストンの乗組員たちがもっと早く自分を起こしていたら――今頃は彼自身もこの世にいなかったのだ。


「その物体というのは……もしや『機動殻(マニューバ・クラスト)』では」


 大佐がうなずいた。

 

「私もそう考えている。中尉、君は事前にあれについて何か知っていたか?」


「いいえ、大佐。タカムラ大尉から警告を受けたのが初めてです」

 クルベはゆっくりと首を横に振った。

 

「そうか……ならば良い。情報はまだ統制下にあるわけだ」


「ですが彼には今後、事実を認識してもらわねばなりません」

 タカムラ大尉が右手を軽く上げた。


「その通りだ。クルベ中尉、君は八年前に南アフリカで治安維持部隊に志願し、砲兵として反乱分子拠点の攻撃に携わったのだったな?」


「そうです。その一年前あたりから、地球上でも外惑星連合に呼応すると称した、一連のテロ活動が活発化していました」


 大佐の手元にはB5判サイズの情報端末があった。クルベに関する一切の記録もその中に収められているらしい。

 

 外惑星連合――つまり、木星以遠の太陽系外周、天王星までの三惑星周辺に居住ステーションを構える元植民地群は、三十年前に地球からの独立を一方的に宣言した。緊張をはらみながらも地球との民間通商はその後も続けられ、外交チャンネルも細々と維持されていた。

 

 状況が一変したのは十年前だ。木星の衛星軌道から撃ち込まれた巨大な砲弾が数発、地球上に着弾したのだ。つごう五発の砲弾は無作為とも思える場所に炸裂し、陸地であればそこに巨大なクレーターを穿った。

 旧アメリカのカンザス・シティ。東南アジアのミンダナオ島に、タクラマカン砂漠のど真ん中――シルクロードの貴重な遺跡が一つ、消滅した。アルゼンチン海盆に落ちた一発は、マルビナス(フォークランド)諸島に津波被害をもたらし、ロシアではカラ海に面した極北の港町ジクソンが灰燼に帰した。


 外惑星連合の独立闘争が過激化し、無差別攻撃段階に移った。誰もがそう考えた。

 

 だが、なぜ? 

 

 地球から輸送されるいくつかの物資は太陽の恵みに薄い外惑星帯で人間の生存に不可欠だったし、地球側もガス惑星の大気から生成されるヘリウムやメタン無しでは産業が成りたたない。

 無差別攻撃など、だれにも何の利益ももたらさないはずなのだ。にもかかわらずその後も砲撃は続き、外惑星連合との通信は途絶したままとなった。


 外惑星連合が派遣していた外交官たちは、激昂した地球市民による包囲の中に取り残された――

 

「予想外の惨憺たる結果に終わったために一般には知らされていない事だが、軍は鎮圧のために艦隊を派遣さえしたのだ。タカムラ大尉は知っているな?」


「ええ……艦隊士官養成課程で。『プレジデント・レーガン』を旗艦とする一個艦隊が木星軌道へ向かい、消息を絶った――そう習いました」


 クルベは上官二人の顔を見比べた。冗談にしか聞こえない。『プレジデント・レーガン』ならクルベも知っている。

 艦齢四十年の旧式艦ながら艦首には大口径レールガンを二門装備し、反動による軌道要素の変化をその巨大な機関推力で捻りつぶして航行する、コスト度外視の大型戦艦だ。

 現代において『宇宙軍備の父』と称揚される二十世紀後半のアメリカ合衆国大統領、ロナルド・レーガンにちなんで命名された。

 就役期間のほぼ全てを通じて内惑星統合軍宇宙艦隊の旗艦として君臨したそれが、沈んでいた――

 

「退役して保存ドックに入る映像を見ました。では、あれは……」

 声が震える。

 

「私も見たさ。なかなか良くできたコンピューター・グラフィックだった」

 レイコック大佐はため息をついた。

 

「秘密主義なんぞ根本的な解決にはならんといつも言っているのだが、どうも上層部(うえ)には通じんのだ。

 もうおおかた予想がついていると思うが、『プレジデント・レーガン』を沈めたのは機動殻だ。さすがにあの艦の装甲を貫いて致命傷を与えるには時間がかかったらしい――通信記録と映像がしっかり残っている」

 大佐はデスクの上に身を乗り出し、クルベの眼前間近に顔を寄せて言い放った。

 

「その分析の結果、われわれは確信した。機動殻(マニューバ・クラスト)は人類の既知の科学が作り出したものではない――未知の技術、あるいは別種の生命進化によって作られたものなのだ」


少し予定を早めて更新、次回も出来上がり次第。お待ちください

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