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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

21のシール

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 へ~、ここのところシール帳がまた流行り始めているんだってさ。

 つぶらやくんも、むかし流行っているところを見なかった? シール帳。見栄えを重視したり、決まったカテゴリーものをそろえたり……こだわりを発揮できるわけだ。

 これらを交換していくのが一種のコミュニケーションツールとして機能する。昨今のSNSが発達した環境なら、見せあいっこはますます容易であろうな。

 コレクションを充実させていくのは、確かに楽しい。しかし、不特定多数の目に留まるようなシチュエーションは、特に注意が求められよう。

 電子のネットワークに乗らなかったとしても、どこで何が見ているのかわからないからね……。

 僕も昔にシール集めをしていた時期があってさ。そのときに出会ったヤバめなことなんだけど、聞いてみないかい?


 当時、シール集めといったらお菓子についてくるものが身近だったなあ。

 カプセル付きのガチャガチャに比べると、コストが安かったという背景もある。ガチャガチャを一度回すお金で、シールつきお菓子を3つは買うことができたからね。

 シールの入っていたお菓子はグミのもので、種類は21。当時としてはかなり多く、コンプリートした子はまわりにいなかった。


 ――そこまで集めたいなら、トレードしたほうが話が早いんじゃないかって?


 確かに交換する文化はあったものの、解決の役には立たずにいた。

 なぜなら、21種のうちの1種類だけがごくごく低確率で出現する話で、僕を含めたみんなも持っていないのは、その1種類のみだったのだから。


 かのシールを話題にとり上げる子供用雑誌でも、そのラスト1種はシークレット扱い。

 真っ黒いシルエットとでっかいクエスチョンマークに隠されて、その姿はちっともわからなかったんだ。

 現在のようにネットワークが広まっていない以上、口伝えも優秀な伝達手段ではあったが、その話す姿は人によってあまりに違いすぎた。

 こいつはフェイクだな、と僕は思う。みんながみんな、勝手な想像に基づいて見栄を張っている。実際、「じゃあ見せてみろ」というと、とたんに渋る者ばかりだった。


 ――ならば、自分がコンプの一番槍になれる可能性は、まだ残っている。


 そう信じ、僕は引き続きお小遣いの大半を、シール付きのグミへ費やしていたわけだが。


 ついに21種類を全部集めた、という旨をとある友達から聞く。

 これまでの見栄を張ったみんなと違い、シールを見たければ放課後に指定した公園へ来いと、自信満々にいわれたよ。あくまで限られた相手にのみ、見せたいらしかった。

 先を越された悔しさは確かにあったさ。でもそれ以上に、21種類目の謎に包まれたベールが暴かれるとなると、そちらの楽しみもおさえられなかった。

 一番槍の栄誉はゆずっても、21種類目がどのようなものか分かれば、目標もはっきり設定できる。それを糧にグミを買い続けていく所存だった。

 そして学校からの帰り。いったんランドセルを家へおいてから向かった、その指定先の公園で、すでに友達は待っていたんだよ。

 手帳をきっちり携えてね。非常に硬派なシール帳だったよ。


 僕と友達の2人は、公園の片隅でその手帳をこっそり開く。

 見開き2ページにびっしり張り付けられたシールたち。そのうちのほとんどは、僕自身も確保している柄のものだ。

 その手帳たちの一番右下が、僕のまだ知らぬ21種類目に当たるわけ。さっと目をやった僕だけど、シールを見てつい何度も瞬きしてしまう。

 そこには、何も描かれていないように思えた。しかし、シールの下方にはグミから出てきたものであることを示す、開発した会社の名前が印字されている。シールの表が、ひたすらにまっさらなのだ。


「正面から見ると、こいつは見えないよ。確認するにはね……こうするんだよ」


 じょうろで花壇の花へ水をやるように、友達は手帳をゆったりと傾ける。

 すると、真っ白かったシールに光が反射するとともに、七色を帯びたプリズム加工を思わせる光とともに、表面へ浮かびあがったものがある。

 ほんの一瞬のことで細かくは見られなかったが、それは腰に両手をあてた無貌で青みがかった体をした人型で……。


 ――ん? なんで一瞬しか見られなかったのかって?


 それがね。

 21種類目のシールの柄が浮かぶや、シール帳の見開いたページがにわかに強い光を放って、僕の目をくらませたからなんだよ。

 不意打ちだったから、また視力を取り戻すまでに時間がかかった。どうにか目を開けられたときには、友達の姿はすでになくなっていたんだよ。

 雨があがってから、さほど時間が経っていない、公園のぬかるんだ土の上。僕も友達もそこへ足跡を残しながらここまで来ている。

 友達の足跡は一本道しかない。この一瞬でかけ去っていったなら、もう一本の足跡が残っているはずなのに。

 手帳は開いたまま、地面へ落ちている。手に取ってめくってみたけれど、どこを見てもあの全種類のシールを張り付けたページは見つからなかった。ちぎれたにしても、どのページもあまりにきれいすぎて、にわかには信じられなかったよ。

 ただ、その場で見上げた空。雲一つない青空には、像が残っていたんだ。

 強いカメラのフラッシュを受けた直後のような、七色の光。あの手帳を傾けたときに発せられたのと同じ色を放つ光が、空へくっきり残っていたからだ。

 あの21種類すべてが張り付けられた、シール帳の見開きそのままのデザインでね。ほぼ輪郭だけどこちらは何分も残り続けていたんだ。


 それから、例の友達はずっと行方不明になっている。

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