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第15話 解禁されたフォーク

 投球練習が続くとギャラリーはどんどん増えていった。そしていつの間にかキャッチボールの相手がいなくなった嵯峨や看護要員のひよこ、マネージャーの菰田、スコアラーの西までもがその中に加わっていた。


 誠はもう50球は投げていた。誠の一番の売りの浮き上がるようなストレートがその半分。他にもスピードを殺したカーブ。ストレートと同じ軌道からわずかに落ちるスライダー。最近覚えた打者の目先を変えるためのシュート。そしてこれまでの試合では決め球と言えた大きくストライクゾーンから一気に沈み込む大きなスライダー。フォーク以外の誠の持ち球は全部投げ切った。


 かえではその球のすべてを難なく受け止めてそして受けるたびにすぐにまるで二塁ランナーをけん制するような勢いのある球を誠に返して来る。


「ギャラリーも増えてきたね……それじゃあ、フォークの解禁と行こうか」


 一度マスクを外し汗を拭ったかえでは前歯が光っているんじゃないかというような笑顔を浮かべた後静かに座って誠の投球を待った。


『本当に捕れるのかな?でもあれだけ言うんだから……なによりこれまでかえでさんは一度も僕の球に反応できなかったことが無い。僕は自分で好きなように好きな球を好きなコースに投げているのにまるでかえでさんがサインを出しているように全部反応している……もしかしたら本当に高校時代のあのキャッチャーだったアイツみたいに捕ってくれるかもしれないな』


 誠はそう思いながら自分の大きな左手で何球をゆっくりと挟み込んだ。


「本当にあのフォークを捕る気なの?あんなの私でも止めるのが精いっぱい……あれが捕れたらアマチュアレベルのキャッチャーなら一流も良いところよ」


 かつて誠のフォークを受けたことがあるアメリアは静かにそう言った。


 誠はその言葉を忘れるように心がけながらゆっくりとしたモーションで左腕に力を込めた。


 誠が大きなフォームから投げ込んだフォークはストレート並みのスピードで進み打者の直前に当たる地点で急激に落下した。


 ホームベースの後端でワンバウンドした球をかえではそのバウンドを読み切ったようにミットを動かしその中央で捕球してすぐさま球を握って誠に投げ返してくる。


「実に良い球だ。これなら僕が頼んだプロのフォークピッチャーの球とも遜色ないくらいだ。まあ、あちらは硬球でこれは軟球だからどっちが捕るのが難しかというとやはりプロの球の方が難しいかな」


 マスク越しに笑顔を浮かべるかえでを見て誠はただ驚きに包まれていた。


『かえでさんは僕のフォークをまるで当たり前のワンバウンドした球のように捕った……あの様子だとランナーがいてもかえでさんはすぐに送球できる……こんなキャッチャーであったことが無いぞ……僕は最高のキャッチャーに出会えたんだ』


 誠は自分でもほおが緩んでいるのが分かった。得意球がいついかなる時でも投げられる。これまでにもない自信が誠の中に産まれていた。それが誠に激しい愛をぶつけてきて少し誠を困惑させて来る変態のかえでであったとしてもそれは変えられない事実だった。

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