表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

第五話「クレイ」

クレイ「しゃ、しゃべったぁぁぁぁ!!!」


地盤深く窪んだクレーターの中心で、クレイの絶叫が木霊こだまする。


――原住民さん、こんにちわぁ。私は繁縷はこべらと申しますぅ――


クレイの手の中の光玉が、繁縷はこべらと名乗る声に合わせてゆっくりと明滅する。


クレイ「は、はわわ・・・はっ!原住民じゃないわよ!わ、私はクレイよ!というか、あなた喋れるの!?」


脳内に響く不思議な声に戸惑いながらも、上ずった声でクレイが尋ねる。


――はい、喋れますよぉ。クレイさんですかぁ。確かに、原住民さんでは無いですねぇ。私は、繁縷はこべらと申しますぅ――


クレイの眼前30cm。


クレイは、繁縷はこべらと名乗る明滅する光の玉を神妙な面持ちで見つめた。






そして、僅かに間をおいて。


クレイ「はぁ~、喋れるなら食べられないわね。」


クレイは、大きく溜め息をついて光の玉を手から離した。


――おそろしいことを言いますねぇ。私は、喋らなかったら食べられていたのでしょうかぁ――


クレイの手から離れた光の玉がふわふわと浮かび、クレイの周りをくるくると回る。


クレイ「もちろん、美味しかったら食料よ!でも、美味しく無かったら一口齧ってポイね!」


――えぇ・・・そのぉ、ご飯いりますぅ?――


繁縷はこべらの呆れるような憐れむような声が、クレイの脳に響く。


クレイ「ご飯くれるの!?繁縷はこべら、あなた、いい人ね!!」


繁縷はこべらの感情など意に介さず、クレイは、元気よくご飯の話題に喰いついた。






――それでは、ご飯を出すので少し目を瞑って下さいねぇ。決して目を開けてはダメですよぉ――


クレイが目を瞑るのと同時に、光玉はこべらが明るく輝き世界を白く包んだ。


そして、光が収まったのち


――はい、ご飯ですよぉ。クレイさん、目を開けてください~――


繁縷はこべらの声に、クレイがゆっくりと目を開け・・・そして、半目した。


クレイ「何これ。」


短く折った四角い木片のような物・・・それが、クレイの目線の高さでぷかぷかと浮遊していたのだ。






――ご飯ですよぉ――


クレイ「グール族だから消化器官には自信があるけど・・・木片はさすがに食べられないわよ。」


――木片では無いですよぉ。繁縷はこべらの手作り甘味スイーツ濃縮固形栄養剤テオブロマですぅ。僅か30gの質量の中に三日分の栄養価が含まれてますぅ――


クレイ「うーん・・・?とにかく、一応食べられるのね。今日はね、ずっと朝ご飯を探してたの。本当に助かったわ。ありがとう。」


クレイは、そう言うと目の前に浮いている木片のような物を掴み取り、懐の中へと仕舞った


――おやぁ、今食べられないのですかぁ?――


クレイ「うん、家で弟が待ってるから。家に帰って半分こ。」


繁縷はこべらを見つめて、クレイがニカッと笑う。


――なるほどぉ。弟想いのいいお姉さんなのですねぇ。家族愛は善行ですぅ。私、家族を大切にされる方は大好きですよぉ。ではでは、もう一本差し上げますねぇ――


繁縷はこべらがそう言うと、クレイの眼前に短く折った木片のような物が出現した。


クレイ「あれ、今回は光らないの?」


再び出現した木片のような物を掴み取り、クレイが不思議そうな顔で繁縷はこべらに尋ねる。


――ああ、忘れていましたぁ。実は、光らせるのは演出だったのですぅ。――


クレイ「ふーん。繁縷はこべら、あなたって、本当に不思議。それで、とてもいい人。弟の分までありがとうね。ところで、繁縷はこべらはこんな所で何してるの?」


二本目の木片のような物を懐に仕舞い、クレイが繁縷はこべらに問いかける。


――実は、タマゴを探してるんですぅ。ここら辺に落ちているはずなんですぅ。タマゴ知りませんかぁ?――






クレイ「ううん、知らない。」


繁縷はこべらの質問に対して、クレイは嘘で答えた。


クレイ(あれ、どうして知っているのに知らないって言ったんだろう。ま、いいや。そういえば、私は何をしていたんだっけ。そうだ、村長の所の帰り道だったのだ。まったく、どうして誰も肉欲について教えてくれないのだろう。そうだ、目の前のこの子に聞いてみよう。)


クレイ「ねぇ、肉欲って知ってる?今日ね。アルゴールの集落中を回ったのに、大人は誰も教えてくれないの。」


――急にどうしたんですかぁ?しかし、おませさんですねぇ。肉欲・・・ですかぁ。知っていると言えば知っていますし、知らないと言えば知らないです。――


クレイ「あなたも教えてくれないの!?あなた、意地悪ね!!」


――クレイさん、肉欲とは罪なのです。あなたが肉欲を本当に理解した時、あなたは罪を犯したことになるのです。ですから、私はあなたに肉欲をお教えすることが出来ないのです――


繁縷はこべらの間延びした声が明瞭とした声へと変わり、親が子供をさとすようにして、繁縷はこべらがクレイに語り掛ける。


クレイ「変なの。でも、私のためなのね。私、そのことは理解できたわ。」


空中をふわふわと浮かぶ繁縷はこべらを、クレイの澄んだ瞳が見つめる。


クレイ「じゃ、私帰るから!バイバイ!!」


そして、クレイは、クレーターの底を猛スピードで駆け上がり、そのまま砂漠の向こうへと走り去った。






――あぁ、行ってしまわれましたかぁ。またお会いしましょうねぇ――






――――――――――――――――――――






クレイとウゥの寝室にて。


クレイ「ただいま~。ウゥ、今帰ったよぉ~。」


しかし、クレイの言葉に返答は無い。


クレイ「あれ、ウゥが居ない。」


そして、クレイの足元。


寝室の入り口には、無数のタマゴの欠片が散らばっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ