喋った
クレイ「えいっ」
クレイは、クレーターのすり鉢状になった斜面を駆け下り、ふわふわと飛んでいる光の玉を両手で捕まえて・・・そして、口を大きく開けて光の玉に思い切り齧りついた。
がぶっ
――わぁ、なんですかぁ。原住民さんですかぁ――
クレイの脳内に、女性のような子供のような間延びした声が響く。
クレイ「!?」
クレイは、齧りついていた光の玉から口を離して、慌てて辺りを見回した。
クレイの視界に映るのは、深く掘り下げられたクレーターの斜面と、クレーターの内部をふわふわと飛んでいる無数の光の玉のみ。
その視界には、声の主と思われるような女性や子供の姿は一切見受けられない。
クレイ「誰?誰かいるの!?」
クレイの大きな声が、クレーターの内部に響く。
耳からでは無く、脳内から聞こえた不思議な声。
バクバク バクバク
クレイの心臓の鼓動が、早鐘を打つ。
――原住民さん、こっちですよぉ。あなたが手に持っている光の玉ですよぉ――
女性のような子供のような間延びした声が、クレイの脳内に再び響く。
クレイ「は?」
持っていた光の玉を頭の高さまで持ち上げて、クレイは、キョトンとした表情で光の玉を見つめた。
――どうもぉ~――
クレイ「しゃ、しゃべったぁぁぁぁ!!!」
――――――――――――――――――――
第七区画、海洋上空300m。
どこまでも続く青い青い海の上、白い翼をはためかせた天使が、飛行速度500ノットで飛行する。
オメガ・桜「さてさて全く、魔王のルルドはどこに隠れたのかな~。」
海面、海中、海底、地殻・・・。
砂漠に落ちた米粒を探し出すような非効率的な手段をもって、オメガ・桜の超感覚が海洋の全てを調べ上げる。
オメガ・桜「ふぅ、全海洋の調査完了。ルルド、居ないかぁ。」
羽ばたかせていた翼を休めて、落下することなく空中で静止をしながら少女が呟く。
オメガ・桜「となると、残るは陸地。」
第七区画における海洋と陸地の面積比は7:3。
天使の超性能をもってすれば、砂漠に落ちた米粒を探し出すことなど時間の問題でしかないのだ。
どこまでも水平線の続く海の上、白い翼をはためかせた天使が、飛行速度500ノットで飛行する。
あと5分も航空すれば、水平線から陸地が顔を出し始めるだろうか。
――――――――――五分後――――――――――
オメガ・桜「あ、えみ太郎くん発見☆彡」
水平線の彼方から徐々に姿を現し始めた陸地を見つめて、オメガ・桜が嬉しそうに口にする。
陸地までの距離は、およそ100km。
人間の視力ならば、まだ陸地を陸地と認識することさえ難しいと言えるだろう。
オメガ・桜「ちょっと遊びに行こ☆(ゝω・)v」
少女の翼が淡く発光し、無数の光の粒子が羽毛の根本から先端へと放出される。
パンッ!
何かが破裂したような音が辺りに響くと同時に少女の姿が消失し、先ほどまで少女が居た場所を中心として、水面を打ったような波紋が大気中へと拡散していく。
完全なる静止状態から推力を加えたその瞬間、オメガ・桜の飛行速度は、音速の壁を越えたのだ。
――――――――――――――――――――
コンコン コンコン
コンコン コンコン
ベッドの上に座ったウゥがタマゴを抱きかかえるようにしながらタマゴを叩き、タマゴの中に居るルルドがそれに応答する。
ここは、砂漠の集落アルゴール。
クレイとウゥの寝室である。
ルルド(生体感知・・・速い・・・近い・・・頭上・・・あ、どっか行った・・・。)
コンコン コンコン
コンコン コンコン
またウゥがタマゴを叩き、タマゴの中に居るルルドがまた応答する。
ルルド(けど、ここも時間の問題か・・・。)
コロコロコロ
ウゥに抱きかかえられていたタマゴがひとりでにウゥの手から離れ、ベッドから転げ落ちる。
コロコロコロ
そして、タマゴは、寝室の真ん中まで転がって、重力に逆らうようにすっくと起立した。
ウゥ「コンコン?」
ひとりでに動き出したタマゴを見つめて、ウゥが不思議そうに首を傾げる。
ルルド(別れの御挨拶はしておこう・・・。)
<<ウゥさん・・・、ウゥさん・・・僕の声が、聞こえますか・・・?>>
男性のような女性のような優しい澄んだ声がウゥの脳内に響く。
ウゥ「うん?」
傾げた首を更に傾げて、ウゥが不思議そうにタマゴを見つめ続ける。
<<ウゥさん・・・、ウゥさん・・・コンコンです・・・。僕の声が、聞こえますか・・・?>>
そして、ウゥは、タマゴを見つめる瞳を大きく見開き、大きく叫んだ。
ウゥ「しゃ、しゃべったぁぁぁぁ!!!」




