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第二話「胎動」

どこまでも暗闇が続くブラックホールの内部。


翼の生えた少女が意識を失ったまま中空を漂い、その周りを輝く無数の光玉がくるくると周回している。


――・・・・・ぁ――


――・メガ・・ぁ――


――オメガ様ぁ――


女性のような子供のような間延びした声が、意識を失った少女の脳内を反芻する。


オメガ・桜「むにゃ。おはよう、繁縷はこべら。今日の朝ご飯なに?」


天使オメガ・桜、起床である。






――おはようじゃないですよぉ。朝ご飯も無いですよぉ。でも、助けに来てくれたんですねぇ。嬉しいですぅ――


上も下も存在しない暗闇の中で、少女は手足を、翼をぐいと伸ばしながら繁縷はこべらの問いに答える。


オメガ・桜「ああ、ルルドがね、私を吸い込むとブラックホールが停止するって言ってきてね。だから、避けられなかったの。」


素っ気なく答える少女だが、その瞳は悲しく虚空の暗闇を見つめている。


――そうでしたかぁ。ブラックホールで惑星ごとえみ太郎くんを消し飛ばしてしまっては、神様が悲みますからねぇ。オメガ様は、善行を積んだのですよぉ――


神の意向に沿うこと。


それこそが、この世界の天使に与えられた何よりの役割なのだ。






オメガ・桜「ま、なるようになるか。天使・繁縷はこべら、状況を説明して。」


――現在私たちの居る空間は、魔術性疑似ブラックホールの内部。ここは、閉じられた空間の歪みの中になります――


先ほどまでの間延びした声とは対照的な、坦々とした明瞭な声が少女に状況を説明をする。


――この空間に対する魔王、及び第三者からの干渉は皆無。この空間は、完全にスタンドアローンの状態にあります――


オメガ・桜「ありがとう、天使・繁縷はこべら。つまり、しかるべき速度で来た道を辿ればこの空間を脱出できるのね。」


――はい、オメガ様――






背中から生えた一対の大きな翼を広げて、天使オメガ・桜は呟いた。


オメガ・桜「生体タキオンエンジン起動。」


オメガの白き翼が眩く光り、無数に煌めく光の粒子が羽毛から放出される。


オメガ・桜「繁縷はこべら、ここを出るわよ☆(ゝω・)v」


――はぁい、オメガ様ぁ――






翼から放出される光り輝く粒子を推力として、無数の光玉を纏った天使が暗闇を進む。


オメガ・桜「繁縷はこべら、もうすぐ光速を超えるからしっかり捕まっておきなさいよ!!」


――はぁい、オメガ様ぁ。ところで、オメガ様が無意識状態だった時の漂流ルートは読み込まれましたぁ?――


オメガ・桜「あー、忘れてたわ☆彡」


そして、オメガ・桜は、光の速度を超えた。






――――――――――――――――――――








ウゥ「お姉ちゃん、ダメだよ。」


ウゥ「このタマゴ、生まれたがってる。」


ここは、砂漠の集落アルゴール。


クレイとウゥの寝室である。






そして、そのクレイとウゥの会話を聞いて心を撫でおろした人物が1人。


???(あぁ、よかった・・・。何とか食べられずに済んだ・・・。)


暗く冷たいタマゴの中、タマゴの状態にまで還元されてしまった魔王ルルドである。


ルルド(タマゴの状態からのブラックホール生成・・・生身による大気圏突入・・・惑星衝突時に原住民を巻き込まないようにするための緊急ブレーキ・・・その上、天使の追跡を回避するための偽装工作か・・・。)


どれも成体であれば余力を持って発動できる程の魔術の行使。


しかし、タマゴの状態まで還元されてしまっては、さすがの魔王ルルドも魔力がスッカラカンである。


ルルド(はぁ・・・。これからどうしようかなぁ・・・。)






クレイ「それでウゥ、このタマゴはどうするの?」


大きなタマゴを抱えて、クレイの瞳がウゥの瞳を見つめる。


ウゥ「このタマゴ、僕が温める。」


ウゥは、クレイの瞳を見つめて返答し、クレイからタマゴを受け取った。






ギュ~ッ


ベッドの上、ウゥが精一杯手足を伸ばして、大きなタマゴを抱きしめる。


タマゴは、大きさにしてウゥの身体の1/3ほど。


ウゥの小さな身体では、この大きなタマゴを温めるに不十分である。


クレイ「タマゴ、一緒に温めようか。」


ギュ~ッ


クレイは、ウゥのベッドに腰を下ろして、ウゥの反対側からタマゴを抱きしめた。


ウゥ「お姉ちゃん、ありがとう。」


クレイ「どういたしまして、ウゥ。」






――――――――――1時間後――――――――――






スー スー


スー スー


分厚いタマゴの殻を通して、ルルドの耳にクレイとウゥの寝息が聞こえる。


ルルド(魔力残量は相変わらずゼロ・・・。感じられるのは、クレイとウゥの寝息のみか・・・。)


タマゴの殻を隔てた向こう側、魔王ルルドを真ん中にして、クレイとウゥがタマゴを抱きしめるようにして眠っているのだ。






スー スー


スー スー


ルルド(右側の熱源がクレイ・・・。左側の熱源がウゥ・・・。)


暗い暗いタマゴの中、タマゴの殻を通して、クレイとウゥの温もりがルルドを温める。


ルルド(ああ、あったかいなあ・・・。僕も・・寝よう・・・。)


そして、ルルドは、クレイとウゥの寝息と温もりを感じながら眠りについた。

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