2、雷迅のヴォルト(後編)
二話同時に投稿しています。
最新話で来た方は一つ前にお戻り下さい。
俺達は、山道を一気に駆け下りる。
目指すは敵要塞、俺を含めた三名は、要塞外にいる敵兵の掃討を担当する。
俺が剣を抜くタイミングとほぼ同時にプレイヤータウンの一角が綺麗サッパリ吹き飛んだ。
いや、違うな。
瓦解したという方が適正かも知れない。
これはイグニスによる広範囲重力魔法で、魔術のカテゴリーに分類はされているものの禁呪つまり遺失魔法などと呼ばれている超強力な魔法だ。
瓦解した建物の中には、教会も含まれていた様で少なくともあのプレイヤータウンを復活地点にしているプレイヤーの復帰を遅らせる事が出来るだろう。
山を無事駆け下りた後、荒野を走っていると次は前線の方で大きな爆発と共に敵兵の恐怖に染まった声が僅かに聞こえた。
その方向を横目で見ると、巨大な炎の化身とバカデカイ地龍が前線部隊がいた場所へ突然出現していた。
あれの犯人は勿論アニエラだ。
彼女は非常に優秀な精霊使いで精霊を二体同時に召喚できるユニークスキル持ちのNPCだ。
あの二体は以前にも見た事がある。
炎の化身の方は、最上位に位置する炎の精霊『ディアボロス』、地を這う龍の方は、これまた最上位に位置する地の精霊『ヨルムンガンド』だ。
恐らく、これで前線部隊が死に戻り以外で要塞へ戻る事はないだろう。
要塞で何が起ころうとそれどころではないだろうからな。
荒野を無事走りきり、要塞をとり囲んでいるプレイヤータウンの入り口にまで辿り着く。
要塞入り口まで一直線に伸びる大通りには、数多くの敵プレイヤー達がいるが、俺達の事にはまだ気付いていない。
「アヤカ、頼む」
「ええ」
彼女は、自身の持っているレジェンド級の弓を構え狙いを定める。
彼女の弓には、矢が必要なく自身の魔法力つまりMPを消費し魔力の矢を発射するタイプの弓だ。
ただ、それだけならこれでなくても数多く存在する。
レア階級が、レジェンド級だからこその特典が数多く存在し、その一つが射程無限だ。
アヤカの持つ弓から溢れ出る光が大きくなった所でやっと敵兵は、俺達の存在を把握した。
しかし、もう遅い。
彼女から解き放たれた矢は、弧を描く事なく真っ直ぐに長い大通りを突き進み、それに触れたプレイヤーは認識する事なく戦闘不能へと陥って行く。
そして、勢いを弱める事なく要塞入り口の分厚い門へとぶつかる。
これで門を破れたものなら儲け物だが、そう巧く行く筈もなく門に付与された耐魔魔法によって防がれた。
まぁ、これも予想済みなので誰一人動揺はしていない。
「ヤグモ、アスタロッテ、アーネスト。 後は任せた」
「「「応」」」
門の所まで駆け抜けた後、三人を見届けた俺達は、散開し各々の役割を果す為の行動へと移る。
俺は門を背にした後、俺の愛用する剣『雷鳴剣ブリッツシュピラーレ』を抜き騒ぎを聞き付けた敵兵プレイヤーと対峙した。
俺の持つ『雷鳴剣ブリッツシュピラーレ』は、プレイヤー生産品の名品級武器だが少し特殊な効果を持つ。
剣自体は、平凡の領域を脱せずまた抜刀術には不向きな螺旋を描いた騎槍の様な形状をしている。
その代わり属性効果に特化しており、エフェクトダメージは勿論の事、密度も非常に濃い。
つまり、抜刀術よりも鎌鼬での攻撃を主眼に置いているという事だ。
剣より溢れ出る雷のエフェクトがバチバチと弾ける。
それだけで周囲にいる敵兵を十分に威嚇していた。
また、俺は暴虐のヴォルトという二つ名で呼ばれた頃からずっとこの剣を使っていた為、この剣自体が俺だと証明していた。
周囲から「暴虐のヴォルトだ」と呟いている声が所々から聞こえる。
目の前にいる敵兵はざっと百人程度、まずはこの大通りから掃除を開始しよう。
『弐乃太刀』
俺は一旦剣を素早く鞘へ納め、コンマ数秒ほどで間を置かず剣を下から上へと解き放つ。
すると、雷のエフェクトを纏い予測不可能なランダム軌道で飛ぶ計十二本の帯が大通りにいた敵兵を貫いて行く。
それと共に金属の武器や鎧を媒体に次々と近くの敵兵へと感電していき、俺の所から十メートル+αにいた者は為す術も無く倒れて行った。
普通の剣ならしばらくの行動不能で終わったかも知れないが、『雷鳴剣ブリッツシュピラーレ』のエフェクトダメージにより戦闘不能となる。
そして、倒れるのを見届ける前に『縮地法・極』を用いて一瞬にて十メートルの距離を移動し再び同様の攻撃をする。
それを何度も繰り返し一分も経たない内に大通りにいた敵兵を全て排除した。
プレイヤータウン入り口にまで来ていた俺は振り返り、近くにあった建物の上へと飛び乗る。
右の方を見ると、一度に三箇所同時に大爆発が起こり建物の瓦礫と人影が舞う。
それから間を置く事なく違う所で三箇所同時に大爆発が起こり先ほどと同じ光景が目に映る。
これは一人のプレイヤーによって為されている現象だ。
『極炎のクラウディア』炎に魅了され炎に明け暮れたハーフリングの魔術師。
火属性の魔術に関しては彼女に匹敵する者は一人としていないだろう。
次に左を見ると、ある建物の屋上から幾本もの光の極太ビームが連続発射されている。
止まる事のない一方的な蹂躙で、実際|魔法力(MP)が切れるまで永遠と続くだろう。
これも一人のプレイヤーによって為されている現象だ。
『超運のアヤカ』チート級の運でレジェンド級・エピック級で装備を固めたハイエルフの弓術師。
彼女は、数世代重ねても取得する事が叶わないアイテムを何個も所持している。
世間一般的には彼女も廃神に分類されているが、実際はライトゲーマーだ。
それすらも覆すほどの圧倒的な火力を持っている。
彼女達の動向を見ている間に再び俺の周りに敵兵が集まりだしている。
俺は集まりだした敵兵が一番密集している所を見つけ出し、建物から飛び降りると共に次の技を放つ。
『参乃太刀』
飛び降りると共に地面へ剣を突き刺すと今度は計十三本もの雷の帯が周囲へと撒き散らす。
密度は『弐乃太刀』ほどではないが、感電してどんどんと帯が派生していき最終的には、かなりの範囲に広がった。
無論、本流と違い派生した帯は、その分ダメージ量が減衰しているが元々が大きい為あまり落ちている様には見えない。
それでも中心地と違い端の方にいる敵兵の中には耐え切った者がいる。
しばらく適当に戦っていると要塞の方から体格の良い全身鎧で固めたヒューガント(人と巨人のハーフ)の騎士が集団を掻き分けて俺の前に立つ。
流石、巨人族の血を引いている事はあり、普通の人では持つ事すら出来ない巨大な追を片手で持っている。
そして、もう一方の手にはまるで壁の様なタワーシールドを持っている。
フルフェイスの兜の隙間から赤い目を覗かせており、敵対心を溢れ出させながら俺を睨む。
「ヒューマ如きが調子に乗るなっ」
兜の中からくぐもった声が吐き出される。
プレイヤーかNPCかの判断で出来ないが何れにせよ装備の質から見て中々の高い位にいる騎士と思われる。
ヒューガントやアースガントの様な巨人族は戦力として貴重で、しばし破城槌の代わりに借り出される事がある。
基本的に巨人族は防具に制限が掛かっているが装備が全く出来ないという事はなく、市販されていないもののプレイヤーによって少数だが造られている。
と言っても、流石にヒューガント止まりだが……。
ヒューガントの騎士は、右手で持った巨大な槌を俺へと狙いを澄まし下から上へと掬い上げる。
恐らくは牽制として攻撃したのだろう。
攻撃前の予備動作がなく反応が遅れてしまった。
とは言え、攻撃速度自体そんなに速い訳ではなかったのでバックステップで簡単に避ける事が出来た。
騎士は、掬い上げた槌を肩の上へ担ぐ様に構える。
そして、左手に持ったタワーシールドを投げ捨て右に持った槌へと左手を添える。
また、投げ捨てられたタワーシールドは大きな音と共に大きく砂埃を立てて地面へと落下した。
兜の中の目が一瞬笑った様に見えたと同時に騎士は肩に担いだ槌を身体毎大きく下へと振るう。
槌の先端がゴォッと空間を壊しながら迫ってくる錯覚がした。
『捌乃太刀』
ドスンッと槌を地面へと叩き落すと丸で地震の様に揺れた。
流石に凄まじい破壊力だ。 当たったら一溜まりもないだろう。
「ま、当たれば……だが」
俺の身体は、槌に触れる事なく蜃気楼の様に掻き消え槌が地面を揺らしたとほぼ同じタイミングでヒューガントの背後に現れる。
そして、ヒューガントに反応する暇さえ与えず、計十三本もの雷撃が全身を覆っていた鎧の中で感電と帯電を繰り返し身体を大きく痙攣させる。
ヒューガントの騎士は、全身を覆っている鎧の僅かな隙間から肉の焼ける匂いをさせ、しばらくしてから前へと倒れた。
見るまでもなく即死だ。
倒れた今も身体の痙攣は治まっていない上に未だ鎧は帯電しいる事から触れると感電する為、周りにいる騎士は救助が出来ないでいる。
「嘘だろ? アラガン殿が一撃でなんて……」
アラガンと呼ばれた騎士が倒れた事によって周囲にいた敵兵達に動揺が走る。
元々、すでに及び腰だった上に期待されていた騎士が倒れた事は彼らにとって誤算だっただろう。
剣を鞘に納め周りを見渡す。
敵兵達は、俺よりも二メートルほど離れそれよりも近寄ろうとしない。
相手に戦う気がなかろうと要塞周辺の敵兵掃討は決定事項なので殺す事に変更はない。
俺は『縮地法』を使い相手の真っ只中へ一瞬で移動する。
敵兵達が反応する前に『肆乃太刀』を使い一気に薙ぎ払う。
勿論、薙ぎ払うと言っても武器ではなく、雷によるエフェクトで薙ぎ払い、それを縦横無尽に駆け回りながら繰り返し粗方の敵兵を皆殺しにした。
「ははは、やるねぇ。 あれだけいた味方が一人も立っちゃいねぇ。 暴虐という二つ名は伊達じゃないって事かな?」
俺の前に一人のプレイヤーが建物の陰から現れる。
西部劇に出て来る保安官の様な格好をしており、太股に取り付けられたホルスターには双頭のショットガンを二挺差している。
双頭のショットガンなんて久しぶりに見た程珍しい武器だ。
「俺は、襲撃のクロードって呼ばれてんだ。 宜しくな……は変か。 覚悟しな」
彼はそう言うとホルスターに差していた双頭のショットガンを取り出し器用に回転させた後構えを取る。
これは今までと違い面白そうな相手だ。 それに隙らしき隙が全くない。
クロードと名乗ったプレイヤーを見据えながら構えを取ると、クロードはほぼ同時に予備動作もなく掻き消えた様に見えるほどの速度で間合いを詰めスライディングで足を払いに来た。
余りにも早くてびっくりしたが、対処できない速度ではなく『縮地法』を使い大きくバックステップをする。
「おいおい、マジかよ。 初見で回避出来る奴がいるなんてな。 それにお前『縮地法』の使い手かよ」
「へぇ、『縮地法』を知っているとはな」
「まぁな。 昔の知り合いに使ってた奴がいてなっ」
またしても、一瞬で俺との距離を詰め、気付いた時には中段蹴りの予備動作に入っていた。
速い……『縮地法』ほどではないが、これは脚力の効果ではなく何らかのスキルと思われる。
俺はクロードの蹴りにタイミングを合わせ鞘に差したまま剣を上へ斬り上げた。
「ぬあっ!?」
ジャストタイミングだった様でこちらに衝撃はなく、クロードの蹴りが放たれる事はなく後ずさる。
漸くクロードに隙が出来た。
俺は『縮地法』を用い一気に間合いを詰め『弐乃太刀』で斬り上げる。
この距離で計十三本もの雷の帯を避けられる訳がない。
「やらせるかっ」
クロードは、バックステップしながら二挺の双頭ショットガンを前へ突き出し撃った。
ショットガンから放たれた散弾が壁の様な役割となり、雷の帯はクロードに届く前に防がれる。
「!?」
「っあっぶねぇ」
お互い相手の攻撃に驚いた感じで五メートルほどの間合いで睨みあいながら再び構える。
こんなやり堪えのある奴は久しぶりだ。
「ふはは、くそ強ぇな。 アラガンの奴が瞬殺される筈だぜ。 こりゃ、気を引き締めないとな。
フェアフィールド流格闘術、クロード=ブラックウッド。 行くぜっ!」
クロードは、改めて名乗った後、先ほどの構えよりも一層深く低姿勢で両手に持った二挺の双頭ショットガンを構えた。
「! そういう事か……。 そう言えば、あの時一度も戦わなかったな。
月守夢想流剣術、ヴォルト=ローグライト。 参る!」
クロイツに似た戦い方と思ったら本人だったとはな。
蹴り技からの銃撃という二段構えによる攻撃、それがクロイツが得意としていた戦法だ。
手数も多い上に近距離でのショットガンによる強力な攻撃を持っている。
威力はともかく手数で劣るので、こちらも二刀流で戦う事にしよう。
スキルで保護された二刀流ではなく、利き手が右も左もいける両利きによる似非二刀流だが、二刀流ボーナスがないだけでそれ以外は問題ない。
俺は腰を落とし左右の手を逆の鞘へと添え構える。
ま、現実でこんなものが抜刀術になる筈もないが、これはゲームなのでこういう無茶な二刀抜刀術も可能だ。
「ちょっえっ!? まじかよ。 はは、んじゃ、再会を祝して殺し合いをしようじゃねぇか」
俺達はお互い笑みを浮かべながら、ほぼ同時に跳び出した。
これからという所でしたが、ヴォルトの話はこれで終わりです。
《Real》雨月亮あまつきあきら♂
《Name》ヴォルト=ローグライト
《Race》ヒューマ※
《Sex》男
《Age》32
《Clan》なし
《Weapon》
・雷鳴剣ブリッツシュピラーレ ×2(内一本は予備)
《Equip》
《Detail》
二年目の【列強の時代】にて『暴虐のヴォルト』として有名な傭兵。
流派は、月守夢想流剣術で度重なる流派結合と進化により初代キャラ時の同流派とはまるで別物になっている。
また、抜刀術と鎌鼬による広範囲攻撃を得意としており、対個人戦でも二つの要素による二段構えにて比類なき強さを誇る。
リアル期間一年の締めくくりとして四つの時代最後である【列強の時代】最後の大型公式戦争イベントにソロで参加したが、彼の悪名高き二つ名によりパーティを組んで貰うプレイヤーが現れず、同じ様な境遇の七人と臨時パーティを組む事になる。
【列強の時代】の最初期に開始した古代エルフ族との結婚クエストをこの戦争時でもまだ続いており、彼に付き従う様にNPC『アニエラ』が傍にいる。
《Name》雷鳴剣ブリッツシュピラーレ
《User》ヴォルト=ローグライト
《Rank》Rare
《Level》応用剣術18
《Base》騎士剣
《Effect》雷属性付与、エフェクトダメージ有り(武器攻撃力400%、間接感電毎に-100%)
《Detail》
名工アナキス=クロードの作品。
彼が手掛けた螺旋剣アイゼンシュピラーレから派生した中で雷属性の特化した剣。
属性特化の為、ステータス補正やスキル補正などは一切ない。
属性ダメージだけならエピック級やレジェンド級に迫るほどの性能を持つ。
各属性二本ずつ作ったらしい。




