第83話・Finalエピローグ
最後の最後にクロイツ無双回
時代進行まで一週間の予備期間……その内二日を王都シドレードへ戻る為に使ってしまい残り五日となってしまった。
さて、この予備期間は何の為に設けられたのか……、それは次代のキャラを作る為、もっと簡単に言えば子作りの為だ。
このβテストから正式に移行する今回に限って短命種族を使用するプレイヤー全員は、一律で世代交代をしなければならない。
俺はまだマシな方で中には、結婚相手を見付けなければならないプレイヤーもいる。
このままプレイヤー間結婚が出来ないでいると、NPCと結婚……はまだ良い方で最悪結婚できずに養子を迎える事になる。
養子とは、つまり前キャラから能力を引き継がないで新キャラで始める事になる。
新キャラと言っても最初のキャラと違い、種族選択も容姿変更も出来ない上に現キャラと同種族のNPC(十五歳)からランダムで決定される。
E/Oでは世界観と合わない様な奇妙奇天烈な容姿をしたキャラがいないものの、容姿の整っていないキャラが選択される可能性も当然ある。
「で、心の準備は出来た?」
全力で現実逃避をしていた俺を現実に引き戻したのは、ベッドの上でもう準備は出来てるぜと言わんばかりのニヤケ顔をしたクロイツだ。
俺はとうとう逃げに逃げまくっていた子作りとやらをしなければならないのだ。
もう流石に逃げ切れない。
それよりも、その顔ムカツクんですけどっ!!
「いや、はは、ど、どう……なのかな?」
「ほら、服を着ていては出来ないじゃないか。 こ・づ・く・り」
「こ、こづっ!?」
「嗚呼、この恥かしがるアキラはやっぱり可愛いなぁぁ」
クロイツは、俳優ばりの仰々しい身振り手振りをしている。
奴の中で俺はすでに胸の中で抱かれているのだろうか。
うぅ、寒気が……。
「ささ、服を脱いでこっちへおいで」
子作りには手順がある。
結婚⇒同室⇒マニュアルで服を脱ぐ⇒同じベッドで寝る⇒キス⇒(仮想セ○クス)⇒一夜を過ごすだ。
服を脱ぐ時は、全裸でなくても良いが、下着にはなる必要がある。
また、仮想セ○クスまでしなくても良いが、キスをする必要がある。
で、今は服を脱ぐという過程で行き詰っている訳だ。
服を脱ぐ際、マニュアルと一瞬があり、マニュアルはリアル遵守で一瞬は読んで字の如くだ。
で、子作りの場合は、原則マニュアルなのだが……。
嗚呼、先が長い。
ちなみに、クロイツはすでに服を脱いでベッドの中にいる状態だ。
「何なら俺が手伝ってあげようか?」
「い、いい。 じ、自分でやるっ」
く、くそっ、クロイツの癖に……。
俺は不本意ではあるが恐る恐る服を脱いでいく。
着物タイプの服装なので、帯を外してしまえばそんなに難しい事はない。
武器を全て外し終わり、いざ帯に手を掛けたところで手が止まる。
「どうした? 手が止まってるけど」
「わ、分ってる」
帯を一気に解くと前面が開き素肌と下着が露になる。
「くっ」
くそ、ゲームなのになんでこんなに恥かしいんだ。
昔のゲームなら遊び半分で服を脱いだものなのに……。
「ああ、もう!!」
俺は目を瞑り勢い任せに着物を脱ぎ捨て、インナーとニーハイソックスそしてブーツという実にマニアックな姿となる。
「おおっ」
クロイツから感嘆の声が上がるが、それを無視しベッドに腰を掛ける。
ここで立ち止まると恥かしさのあまり思考停止し兼ねないので、一気にブーツとニーハイソックスを脱ぎ捨て布団の中で潜り込む。
「嗚呼」
自画自賛したい程の早業で一連の動作をした為、クロイツにあまり見られていない筈だ。
「えーと、アキラさん? もうちょっと見せて貰いたかったのですけど?」
「だ、誰が見せるかっ!!」
「ま、良いけどね。 代わりに……」
クロイツは、いきなり身を起こし背を向けて横になっていた俺に覆い被さってきた。
そして、強引に俺の肩を掴み正面を向けさせると同時に抱きついた。
「なっ!? ちょっ」
クロイツは、俺の首筋に顔を埋める。
「これで匂いとかすれば良いんだけどな」
「おまっ、変態かっ!?」
「アキラ専用のな」
ひぃ、誰か助けてくれ。寒気が止まらない。
何が俺専用の変態だよ。
ああ、どうする。 俺どうしたら良い。
そ、そうだ。 取り合えず、ここから出よう。
「ぁむっ……んんんん!!!!!????」
俺が混乱動揺している間に何時の間にかクロイツの顔がそこにあり、有無を言わさず唇と唇が重なっていた。
男とキスしてるんですけど~!?
くそっOS社め、同室で一夜を過ごす、これだけで良いじゃないか。
何で裸やキスなんて要素入れるんだよ~。
俺には男色の気は一切ないってのっ!
畜生、抱き付かれてキスされているので抵抗できねぇ。
◆◆◆
長い時間クロイツにキスをされていた様な気がするが気付いたら朝になっていた。
いや、別に男にキスされたから気絶した訳じゃないからな。
言い訳じゃないからな、マジでホントだから本当……の筈だからっ!!
そういうシステムなの。
俺は男だぞ。 男と仮想セ○クスなんてやる訳ないじゃないか。
それにしても、ディープキスなんて初めてしたな。
仮想かつ相手が男だけど…………って、何でそんな事考えてんの?
俺どうした……どうしてしまったんだ。
っていうか、キスとか仮想セ○クスとか興味ないからね。
「あぁぁ……鬱だ。 死のう」
混乱が治まらない。
それはそうと、視界上部のメッセージが気になって仕方がない。
《子供キャラの作成が出来ます。 名前を決めてください》
《男の子だった場合「 」》
《女の子だった場合「 」》
ちゃっかり、クロイツとの子供が出来てました。
一夜を共にした翌日に子供が出来ている。
ゲームでなければ有り得ない事だが俺としては助かった。
男とキスした上に妊娠するなんて事にならなくて……。
「名前かぁ……」
俺は子供キャラの名前をどうするかぼんやりと考える。
ちなみに、横で寝ている存在なんてなかった事にしている。
「俺は、女の子ならアキラにするよ」
「やめてっっ!!!」
空気読んでよ。俺はそんな事望んでないからね。
プレイヤーの間で生まれる子供は、必ず双子として生まれ、それぞれが次代の子供キャラとして操作する事になる。
生まれる子供の名前以外は、両親となるキャラの特徴やら特性を引き継いで生まれる。
勿論、そこには外見も含まれ両親のキャラの特徴を引き継ぎつつランダムで決定する。
また、使える様になる子供キャラは、両プレイヤーで全く違う様になっている。
つまり、二卵性双生児という事だ。
まぁ、ランダムなので偶然似たようなキャラが生まれる可能性もなくはない。
「名前どうしよ……」
ぶっちゃけ、ランダムに出来るならしたいぐらいだ。
しかし、名前は唯一プレイヤーが決める事が出来る項目なのでランダムにはしないそうだ。
もう良いや、適当に決めよう。
「ヴァージル、アスカ、で」
この名前に意味はない。
強いて言うならば、ア行繋がりだ。
《子供キャラの作成が出来ます。 名前を決めてください》
《男の子だった場合「ヴァージル」》
《女の子だった場合「アスカ」》
《これで宜しいですか? はい/いいえ》
「はい」
これでもう子供キャラの名前変更は出来なくなる。
「じゃ、俺は……クロノス、アキラ、で」
「ちょ、まっ」
やめてって言ったのに……、本当にアキラにしちまったよ。
「はい」
ああ、これで変更出来ないじゃん。
「ああ、もういい。 ボクは自室に帰らせて貰うから」
「ええ、もう?!」
クロイツの事だから、正式に移行するまでずっと一緒にいたい……とか考えている筈だ。
でも、そうは行かせない。
というか、何で残り四日も男と一緒に暮らさないといけないんだ?
「俺達、夫婦だろ? それに子d「なに?」…ぇーと、いやぁ、何でも……ない、かな?」
それ以上言ったら殺すよっていう殺気を混ぜた目付きでクロイツを睨む。
そして、ドアノブに手を掛け振り向く。
「ヘタレ」
「へ?」
やっぱり、クロイツはヘタレだ。
昨日は、いつもと違いかなり強引だったけど本質は変わらない。
クロイツが何か言い返す前に廊下へ出てドアを締めた。
廊下を見渡すといつも見張っているかの様にいるジナがおらずホッとする。
流石のジナも結婚相手と子作りをしなければならないのでいない。
正式まで静かに過ごせそうで何よりだ。
◆◆◆
《正式サービス移行まで残り十分です》
《現在、ゲーム内に残っておられるプレイヤーの皆様は、速やかにログアウトをお願いします》
《時間になりますと即時にサーバーが閉じられます》
《その際、フィールド及びダンジョンに居られますと非常に危険です》
《出来るだけ安全な場所へ移動して下さい》
正式サービスへの移行アナウンスが始まった時、俺達『深緑の傭兵団』はいつもの溜り場である『泉と華』に集まっていた。
そして、ここで残留するか脱退するかの話になった。
結果はこうだ。
●アヤカ、当分結婚しない為、残留。
●ヘンリックさん、同じく当分結婚しない為、残留。
●ヴィルヘルムさん、結婚するつもりはない為、残留。
●エミリアさん、したい事が見付かるまで、残留。
●アイリスさん、やる事もないので、残留。
●エレナさん、結婚の為、脱退。
●エーツーさん、商人としてプレイする為、脱退。
●ベアトリスさん、脳筋傭兵団と共に行動する為、脱退。
で、残り俺を含めた短命種族組はというと全員、再入団はしない事になった。
しばらくは、”ソロ”でプレイしようかと思う。
『深緑の傭兵団』は、ただでさえ少人数の弱小クランだったのに半分以上が脱退もしくは世代交代する為、大きく人数が減る事になった。
しみったれた空気の中、送迎会という名目でサーバーが閉じられるその時までバカ騒ぎしている。
バカ騒ぎしているのは俺達だけではない。
正式サービスのお祝い、全魔王を倒したお祝い、俺達の様に別れを惜しみながらの飲み会など幾つものクランやパーティが「泉と華」を満員御礼にしている。
そして――。
《残り一分でサーバーが閉じられます》
《速やかにログアウトもしくは安全な場所へ移動して下さい》
「いよいよ、ね」
「ああ」
なんやかんやで長い時間一緒にプレイしていた仲間だ。
いざ、分かれるとなると涙腺が緩んでしまう。
俺達だけじゃない「泉と華」にいる皆が涙を流しながら笑っている。
《サーバー閉鎖まで残り十秒》
『九』
『八』
『七』
『六』
『五』
『四』
『三』
『二』
『一』
『皆、どこかでまた会 (おう)(いましょう)』
ブラックアウトしたかと思うとHMGのデスクトップ空間に立っていた。
流石に、この心情で『百ちゃんねる』を見る気にもなれず まだ余韻が残っているが俺はHMGを外した。
予てより宣言していた通り、この話でE/Oは完結したいと思います。
拙い文章でありましたが、最後までご愛読して頂きまして誠に有難うございます。
それと、感想・評価を頂ければ嬉しいです。
あ、でもお手柔らかにお願いしますね。
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2XXX年XX月X日第二期スタート決定!!※アニメ、ログ・ホライゾン風予告
『新訳・E/O』
雨月亮がE/Oをプレイする様になって三年、時代進行による世代交代で子供キャラにチェンジした矢先ログアウト不能・デスゲームに陥る。
E/Oを支える四つの超高性能AIの一つ『ヴィーナス』は告げる。実験は終了したと……ゲーム内に閉じ込められた約一億人のプレイヤー……彼らは無事生還出来るのだろうか。
「現実を超えた非現実がそこにある」




