第77話・ドロップ品の行方
結構短いです。
テキストデータでいうと前話に比べて6KBも短いです。
ですが、切りが良いのでこのまま投稿します。
ラースの死体は、しばらくして塵となって消えた。
死体があった辺りに戦利品というべきアイテムが落ちていた。
どこぞの紳士が着ていそうな燕尾服と一本の少し厳つい長剣だ。
燕尾服の方は、ラースが着ていた物とそっくりなので何か想像は出来る。
と言っても、たたの燕尾服ではないだろうけど……。
長剣の方が問題で、柄つまりグリップの所が特殊で銃のトリガーの様なものが付いている。
「何ですかね。 これ……」
誰が呟いたのか分らないが、俺を含めたほぼ全員が同意見の様で答えは返って来そうにない。
皆を代表して『黒獅子』のレオンさんが長剣に手を掛け、試しにとトリガーを引く。
内部で何か小さく音がなった様な気がしたが目立って何も起こらなかった。
「んむ。 分らん」
「あ」
「ん?」
俺は思い当たる事というか気になった事があったなと今思い出しつい声が出てしまった。
「すみません。 ちょっと貸して貰って良いですか?」
「ああ、いいぜ」
レオンさんから長剣を渡して貰う。
そして、数度トリガーを引いてみる。
やはり、内部でカチャと小さく音がなっている。
ラースの攻撃を思い出してみる。
前衛の前にいながら後衛にまで届く攻撃、薙ぎ払った際に横に並んだタンクの盾を横一閃に火花が散っていた。
俺は抜刀術の様にラースの剣を構え、一気に横薙ぎする。
その際、トリガーも同時に引く事も忘れない。
すると、ラースの剣の刀身が分割されて行き、最終的には剣先が二十メートル先の所になった。
ラースの攻撃の様な鋭さはなく、伸びきった後だらりと項垂れた様に刀身は床に落ちた。
「「「おおっ!!」」」
つまり、この剣は蛇腹剣だ。
当然、俺の流派は蛇腹剣に対応していない。
それにしてもこんな厨二武器がE/Oに実装されるなんて実物を見るまで夢にも思わなかった。
というか、……戻し方が分らない……どうしよう。
「あ、エーツーさん。 これを見て貰えません?」
「エーツーじゃねぇって言ってんだろがっ!!」
「まぁまぁ」
「ふん、鑑定しろってことかの? ほれ、貸してみな」
俺が柄を渡した後、数秒で鑑定が終わりすぐに返されてしまった。
別に返さなくてもレイドを組んでいるのだから鑑定結果は共有されていて見えるのだが……。
どれどれ。
《Name》炎剣ミラージュ・ヘイズ
《User》――
《Rank》Epic
《Level》応用剣術Lv10、応用鞭術Lv10
《Base》長剣
《Effect》炎属性付与、刀身分割、刀身分割時不可視、精霊特効、不死者特効
《Detail》
魔王サタンより賜った魔人ラースの蛇腹剣。
対セレスティア用に創られたが思ったよりも成果はなく、代わりに精霊に対して絶大な効果を発揮する事が分っている。
精霊特効の副次効果として不死者にも絶大な効果をもたらす。
また、唯でさえ間合いが読み辛い蛇腹剣な上に刀身分割時に不可視となる事から非常に厄介な武器と言える。
わぉ、Epic級じゃないか……。
周囲でも驚愕の声が上がるが、すぐに落胆の声が漏れる。
それは恐らく応用鞭術Lv10の項目で間違いないだろう。
応用剣術Lv10を満たしているプレイヤーは、このレイドには何人もいるだろうが、応用鞭術しかもLv10なんて持っている人いるのか?
鞭術修練ぐらいなら持っている人は、数人ぐらいならいるだろう。
というか、今の段階で応用剣術と応用鞭術の両方持っている人なんていないのではないだろうか。
変な空気が周囲に張り詰めている。
この剣の処遇をどうするか?
周囲に視線を送る。
左隣にいた黒獅子のレオンさんと視線が合うが逸らされた。
右隣にいるエミリアさんを見ると、一瞬で目を逸し咳きをして誤魔化している様に俺には見える。
ぶっちゃけるといらない。
刀身分割時の不可視効果以外、正直微妙な性能だ。
エフェクト効果やエフェクトダメージのない炎属性付与はかなり微妙だ。
精霊特効なんてどこで使うんだよ!?って感じで、不死者特効なんていくらでも代わりが利く。
つまり、長剣としては”普通”だ。
「燕尾服とその他諸々は取り合えず私が預かって置きますので、皆さん先を急ぎましょう」
ヴィルヘルムさんが、燕尾服と消耗品などを回収すると周囲に声を掛け魔王の下へ向かう事になった。
「え? あのヴィルヘルムさん? この剣は?」
「燕尾服で手一杯なのでアキラさんが預かってくれませんか?」
「え、え~!?」
嘘だ。 非戦闘員のヴィルヘルムさんの所持品枠が空いていない訳がない。
少なくとも腰の武器スロット空いているよね?
ヴィルヘルムさんに抗議しようと思ったら、群集に紛れて見えなくなっていた。
他のみんなも俺を避ける様に先を急いでいる。
エミリアさんに肩を叩かれ、口パクで「なるようになる」と言われた。
訳が分らん。
そして、取り合えず回収しようと分割した刀身を戻そうと試行錯誤している間にエントランスには俺一人しかいなかった。
「みんな薄情過ぎ!!」
トリガーを前後に引いたり押したりしているが、内部でカチャカチャと音がしているだけで元に戻りそうにない。
そう言えば、剣を振るうと同時にトリガーを引いた訳だから、逆の動作をしたらどうなるのだろうか。
つまり、剣を引きながらトリガーを前に押し込む。
すると、今までの苦労が嘘の様に勢い良くガキンと金属の鈍い音と共に刀身が元に戻ってくれた。
地味に右腕が痺れている。
「ま、まぁ、結果的に巧くいったし良しとしよう……」
俺は微妙に痺れた右腕をほぐしながら魔王サタンが待つ玉座へ皆を追う様に向かった。
※現段階ではMobに精霊が(確認されて)いない上に戦争も未実装な為、ほぼ必然的にPK専用武器と言える。
※刀身分割時の効果は、条件を満たしていないと発動しません。
※βの段階だと、未実装の武器は勿論、未発見の武器(の種類)もたくさんあり、プレイヤーのほとんどは厨二武器よりも基本的な武器を使っている。




