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E/O  作者: たま。
oβ・クラン
85/94

第76話・決着!魔人ラース戦

隔週で更新する予定でしたが、遅くなってすみません。

一人称で集団戦闘は難しいですね。

何時もより長いです。

 全アタッカーが凍りついたラースに向けて駆け出す。

その中でも取り分け足の速い俺は一番最初にラースへ辿りつく。

ラースは、うつ伏せから立ち上がろうとしている途中で『オリゴルシウス』によって凍結した。

若干、狙い難いので跳躍からの対地攻撃にする。

ラース手前三メートルで軽く跳躍し、左手に持った鞘を肩の高さまで上げ、右手で刀を抜く。


『漆式抜刀術』


 雷の様な機動で直滑降に刀が走り、ラースを両断するかの様に命中する。

手応えは十分であるが、どの程度効いているのかは分らない。

一旦下がりもう一度攻撃する為に、朧月夜を鞘へ納める。

俺が下がったのとほぼ同時にアタッカーの中でも足の速い数名がラースへ攻撃を加えた。


◆◆◆


「「フハハッ、ッハハハハハ……」」


 大半のアタッカーメンバーによる追撃が終わったところで、禁呪『栄光の玉座グノワールスローン』で出来た無限に広がる空間にラースの笑い声が木霊した。

間違いなく笑い声の発生源はラースで間違いないのだが、四方八方から声を聞こえる。

そこで身体に違和感を感じた。

咄嗟に画面上部に目をやるとHPゲージ下に状態異常『恐怖』が表示されているのを確認した。

それは俺だけでなく、周りを見渡すとほぼ全員に『恐怖』になっている様だ。

皆の動きが鈍い。


「っ、まずい……ですね。皆さん、ラースから、離れて下さい」


 ヴィルヘルムさんの指示で俺達は『恐怖』で若干重たく感じながら後退する。

勿論、何が起こるか分らないでのラースから視線は外さない。

すると、アタッカーの攻撃でもビクともしなかった凍結したラースの氷像がヒビと共に溶けていっているのが見えた。

そして、何とかB班の後方にまで下がる事が出来た頃には、ラースの身体を覆っていた氷は完全に解け水となり、すでに立ち上がっていたラースの足元に広がっていた。


「クハハハハハハ。 面白い……面白い」


 前回の戦闘でラースが禁呪を使用する一歩から一歩半手前の反応で、今回は前回よりもこの状態になるまで三十分ほど早い様に感じる。

そして、この辺からラースの攻撃が苛烈になってくる段階でラースが戦闘狂の一面をさらけ出して来る。


「おや? 恐怖で身体が動きませんかな?」


 ラースが一歩一歩前に歩み寄る。

彼の手には、未だ正体不明な剣が握られている。

剣を持っていない方の腕を前に突き出し、聞き取れないほどの高速詠唱を開始する。

プレイヤーにもスキル『高速詠唱』はあるが、ここまで早く出来るとは思えない。

何を詠唱しているのか聞き取れないぐらいだ。


『ギルティ・インフェルノ』


 ラースがそう言った瞬間、B班の中央で凄まじい爆炎が起こり、警戒していた筈の高防御力の筈のタンクプレイヤーが丸で木の葉の様に散った。

特に爆炎の中心部に近かったプレイヤーのHPゲージは、0を示しており戦闘不能となっていた。

陣形の穴をラースは何事もなかったかの様に通り過ぎ、動揺している俺達へ向けて笑みを浮かべる。

ラースは右手に持った剣を振りかぶる。

何故か分らないが彼の振るう剣の有効範囲は恐ろしく長い。

恐怖で思った様に動かない俺達はどうする事も出来ない。

特に遠距離アタッカーの面々は、この一撃に耐えられるか微妙なところだ。


扇動せんどう!!』


 『挑発』『煽動』『誘導』と同じ挑発系スキルの一つだ。

A班の面々が『煽動せんどう』を使いながら、前に出る。

煽動せんどう』は、短時間しか効果がない上にディレイ時間が長く一戦闘に一回しか使えないが、強制力が非常に高く遥かにレベルの高い相手にも有効という挑発系での奥義に近い……らしい。

ラースの攻撃はA班の面々によって完全に防がれ、彼らの盾と接触したであろうラースの剣との間で激しい火花が横一線に走る。

そこでラースの剣がどういった代物なのか確証は全くないが何となく見えた気がした。


「B班後退!!」


 A班のパーティリーダーである『神盾』のトリスタンさんが『恐怖』で巧く指示を出せないヴィルヘルムさんの代わりにB班に後退の支持を出す。

俺に掛かっていた『恐怖』は、ラースが『ギルティ・インフェルノ』を出した辺りで消えていたが、レイドの中でも一番レベルの低いヴィルヘルムさんはまだ効果が続いていた。

B班で戦闘不能になっていない者は、倒れていた者を抱き起こし共に後方へ下がる。


 ラースの猛攻をA班は何とか凌いでいるが、『扇動』のディレイ時間がまだ終わっていない為、時折攻撃が漏れ後方に待機または攻撃準備しているE班からG班の遠距離アタッカーメンバーに攻撃が命中している。

しかも、回復担当である法術師のほとんどは、現在B班の戦闘不能者の回復に回っている為、今の攻撃で受けたダメージの回復には人手が足りない。

倒れはしないもののこれではジリ貧である。


「も、申し訳ない。 何人か回復へ回って頂けませんか」


 『恐怖』から回復したヴィルヘルムさんが、法術師へ回復の方へ回る様に指示が出し、倒れたメンバーと同じ人数の法術師を残して戦闘へ復帰させた。

しばらくして、ダメージを受け回復されないままだったプレイヤーにも回復の光が当てられ程なくして全快する。

法術師が少なく戦闘職多めの構成が、ここになって裏目に出た感じだ。


 俺達アタッカーメンバーの攻撃は、隙なく続けているのだがラースに変化があまりない。

確実に少しずつなのだがHPは減っているのにも関わらず丸で平気の様に剣での猛攻が続いている。


「A班は、ディレイ時間が終わり次第『煽動』を掛けて下さい」

「くっ、……了解だ」


 A班の陣形中央で攻撃に耐えているトリスタンさんは、盾はラースの猛攻により今にも決壊しそうな程火花が散っていた。

現在の陣形は、レイド内で一番防御力の高いトリスタンさんを中心に∧の形で後衛を守っている。

本来ならA班全員で満遍なく攻撃を受けるのが一番良いのだが、『挑発』が切れているので緊急措置的な陣形だ。

一番前にいるトリスタンさんに攻撃が集中する分、後方にいけばいくほどダメージは低下する上に、陣形の後方にいる者には攻撃が行き難くなる。

ま、俺達近接アタッカー班は、でかいのが来ない限り陣形の外にいるけどね。

ラース戦に入る前の事前会合で、アタッカーはHPが半分以下にならない限り陣形の外で戦い続ける事が決まっている。

また、回復魔法は陣形の中にしか飛んでこない。

法術師を陣形の外へ行かせない為の処置なので仕方がない。


 ラースの攻撃が後衛に何度か命中している。

致命傷になっていない為、法術師の魔法で即座に回復している。

俺達近接アタッカーも懸命に攻撃しているが、ラースは相変わらず後衛に狙いを澄ましている。

それをA班タンク組及び中央のトリスタンさん達が防いでいる感じだが、まだ次の『挑発』を掛ける事が出来ないでいる。


「ヴィルヘルムさん!!」

「うむ。 A班後退! B班前進ならびに『煽動』」


 ラースに最も近いトリスタンさんが盾技である『シールドバッシュ』系の技と共に一瞬だが怯ませる。

その隙を突いて近接アタッカーが猛攻を掛け時間を稼ぎ、A班とB班が交代し、即座に『煽動』を掛けた。

それと共に先ほどまで猛攻を掛けていたアタッカーは一旦距離を置く。

陣形も∧から⌒に変わり満遍なく防御する様になった。

これででかい魔法や技が来ない限り一先ずは安心だ。


「……小賢しい」


 ラースは、現在俺達のしている戦略よりも真正面からガチンコバトルを望む傾向にある。

折角、彼が望んだバトルになり掛けたにも関わらず、B班のメンバーが思ったより早く復活した事によって再び『煽動』で攻撃目標を強制変更させられている事に腹立たしく思っている様だ。


◆◆◆


「クカカカカカッ、ニンゲンにしては良くやった」


 ラースは、表情を破顔させながら言い右手を中空へ上げた。

あれは知っている。

前回の戦闘で詠唱阻止が出来ず俺達を壊滅させた禁呪だ。


「アタッカーは全力で阻止して下さい」


 前回の教訓からこの瞬間の為に力を温存していて、ヴィルヘルムさんの指示で俺達は全力で阻止にあたる。

ラースがこの禁呪の詠唱に入ると、不可視のバリアの様なもので身を包み物理・魔法攻撃両方によるダメージを完全にシャットアウトする。

だからと言って、絶対に破れないという根拠もない訳で前回の反省を踏まえた上で俺達はアタッカーを多めに編成し今まで奥義も出さないでいたのだからな。

そして、これが最後のチャンスとなるだろう。

あの台詞からすでにラースのHPは残りほとんど残っていないと思われる。

詠唱を阻止出来ればそのまま俺達の勝ちで、阻止出来なければ前回同様に禁呪で壊滅させられるに違いない。


 次々とアタッカーメンバーの奥義が炸裂して行く。

近接アタッカーの奥義が炸裂した直後に遠距離アタッカーの奥義や最上位もしくは上位魔術が直撃し隙はほとんどない。

攻撃する順番は予め決めていたので、奥義や魔術に巻き込まれるという事はない。

百人を超える人数がいて順番を決めるというのは、そう簡単な事ではないが自分の前に攻撃する者さえ覚えてれば余り難しくはない。

ちなみに俺の前に攻撃するのはアヤカだ。

前回とほぼ同数の三十人に達したが、やはりまだバリアの様なものが破れる気配はない。


(まだ、足りない)


 前回の戦闘に参加したメンバーは俺と同様で苦虫を噛んだ様な表情をしている。

そして、その中でもまだ順番が回ってきていない者は、焦りも混ざっている。


(まだか、まだか、まだか、まだか……)


 その時、タンクの後方、遠距離アタッカー班がいる辺りから矢と言うよりビーム砲の様な攻撃がラースへ一直線で飛んで行く。

これは待ちに待ったアヤカの奥義だ。

奥義としては少々地味だが射程と貫通力に優れた必中の矢だ。

だけど、そんな攻撃でもラースのバリアは貫通する事が出来ず、丸でバリアを避けるかの様に側面を撫でながら後方へ飛んでいった。

しかし、よく見るとバリアがあると思われる空間に少しだが綻びが見えた。

気のせいかも知れないが、そこへ攻撃するしかないだろう。


 俺は『縮地法』で一気に距離を詰める。

余り時間はない。

少しルール違反になるが仕方ない。


『伍式抜刀術』


 神刀・朧月夜の柄頭でバリアに出来た綻びに向け打撃を打ち込む。

ほんの少しだが、その綻びが広がった様に見えた。

すぐさま刀身を鞘へ納め、一旦後ろに下がった後空かさず次の攻撃へ転じる。


『絶義・他化自在天』


 『縮地法で』踏み出すと同時に鞘から刀を抜き豪快に上へ抜刀術で斬り上げる。

バリアは、まだ破壊出来ないがラースは空中へ吹き飛び、俺はそれを追うかの如く鞘へ刀身を納めながら跳躍しラースを上から再び柄頭の打撃で打ち落とす。

さらに綻びが広がる。

打ち落とされたラースは地面へ落下する。

他化自在天はこの程度の連続技ではない。

俺は対空しながら抜刀術から発生した巨大な十字光の鎌鼬による連続掃射を開始する。

「カァン」とエフェクトの甲高い音を発しながらラースを滅多打ちにしていく。

そして、どんどん抜刀術は加速していき、それに伴いエフェクトの音もどんどん加速していく。

ラースのいる着弾地点は、エフェクトによる光の爆発によって何が起こっているのか分らない状態になっている。

まるで自走砲による集中砲撃に見えない事もない。


 秋月夢想流の時の他化自在天とは大きく異なる技になっているは、名前だけそのままにアルカディア皇国剣術をベースにしている為である。

アルカディア皇国剣術の奥義に抜刀術の概念を足して出来上がったのが、この『絶義・他化自在天』だ。

ぶっちゃけ、アルカディア皇国剣術の面影なんて鎌鼬ぐらいしかないぐらいオリジナル化しているけどな。


 最後の締めくくりとして特大の十字光鎌鼬を繰り出す。

着弾と同時に「パァン」とエフェクトの音とは違う音が聞こえた。

よく目を凝らしてラースを見るとバリアが完全に消失していた。


「!! ほう……」


 ラースは驚愕の表情の後、何かを悟ったかの様に詠唱を止め笑みを浮かべながら俺を見ている。

が、それも束の間、俺の次に攻撃する順番の者が奥義を繰り出しラースはすぐに見えなくなる。


 そして、何人目か数えるのも億劫になった頃、突如『栄光の玉座グノワールスローン』で創られていた空間が消える。

それは即ちラースの戦闘不能……つまり、俺達の勝利という事だ。


「嗚呼、楽しかっ」


 ラースは、目を閉じ全てを言い切る前に息絶えた。

残りは、最後の魔王戦のみとなりました。

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