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E/O  作者: たま。
oβ・クラン
79/94

第70話・Vs賞金首

 顔合わせから三日ほど経ち、今度はクランマスターだけの集会があり、その二日後に魔王城へ向けて出発となった。

 ただ、全員同じタイミングで行軍は悪目立ちするだろうと言う話になったらしく、全クランは時間を少しずらす事になる。

 朝一で『神盾騎士団』その次に俺達『深緑の傭兵団』が王都を出てその三十分後に『百槍傭兵団』が出発する事になっている。

 魔王の領域までなら何事もなければ徒歩一日で着く予定で、領域との境界線辺りにある町で全クランが揃うまで休憩する手筈だ。

 んで、そこから魔王城まではさらに一日歩く事になっている。

 ちなみに、乗り合い馬車や騎乗動物で移動するという選択しもない事もなかったのがら、どちらも数が足りないという事になり徒歩となった。


 王都を出発し四時間ばかり行軍し後少しで森を抜けようかという所で前方から微かであるが、戦闘している音が聞こえてきた。

 対Mobの音ではなく、金属と金属がぶつかり合う音だ。

 相手が人型Mobの可能性も捨て切れはしないが、恐らく片方は『神盾騎士団』だろうと思われる。


「クロイツくん?」

「はい、少し待ってください」


 毎度おなじみの『追駆』のスキルを使っているのだろう。

 クロイツは、森の先を凝視する。


「あ~、これマズイですね」

「どういう意味?」

「『神盾』囲まれています……。しかも、囲んでいる連中は真っ赤です」


 真っ赤……つまり、レッドネームもしくは賞金首だ。

 しかも、PKを生業とする連中だ。

 殺人までは犯していない賞金首は、イエローかオレンジネームで一線を踏み止まっている。

 とは言え、そのほとんどはいずれPKにも手を出すだろうけど。


「はぁ!? なんで賞金首?」

「さぁ。それより人数が多すぎるな」

「どのくらい?」

「見える範囲だけで言えば、最低六十人はいますね」

「六十人もの賞金首なんて、どこから湧いて来たんすか!?」

「あ~、見える範囲で六十人な。 重なって確認できない連中を入れれば二倍はいるかも……」


 つまり、俺達大連合とほぼ同数の賞金首が『神盾』を取り囲んでいるという事だ。

 

「彼らは大丈夫なの?」

「ええ。陣形を組んで防御に徹していますから大丈夫です」

「逆に攻撃も出来ない状態か……」

「ああ」


 方円の陣と言えば良いのか何時かクラン戦で『神言しんごん騎士団』が使っていた陣形技だろう。

 まぁ、彼らとは人数もレベルも段違いに違うので全く同じという訳ではないだろうが、彼らは防御に特化したタンク系の騎士が多く『陣形技』を組み合わせた際の防御力は桁違いだ。

 対ラーズ戦で最後の禁呪を喰らうまで決壊しなかったのは、ひとえに彼らのお陰と言っても過言ではない。


「ついで言うと奴等は俺達に気付いていないですね。

まぁ、『神盾』も気付いていませんが……」

「奇襲……ね?」

「はい」


 相談した結果、モニカさんに槍を一発投擲して貰った後、前衛組が奇襲、その後に後衛組が前衛を援護しつつ攻勢に出る事になった。

 また、エーツーさんとビーツーさんには、ヴィルヘルムさんの護衛をお願いした。

 時間帯が夜ならビーツーさんも前衛組になったのだが、残念ながら今は昼前だ。


「じゃぁ、お姉さんが、一発大きいのをぶち投げて差し上げましょうかねぇ」


 モニカさんが、背中の槍筒?から一本の槍を取り出す。

 これは確か生産プレイヤーにオーダーメイドで作って貰った投擲に特化した槍らしい。

 特殊な能力がない代わりに基本攻撃力がEpic級に迫るほどらしい。

 その分、かなりお高いらしいが……。


「みんな、ちょっと離れてて……」


 槍を手首の返しでクルッっと一回転させた後、力を溜める様に後ろへ振りかぶる。


『奥義……。ゲシュトロフィ・ランツェ』


 彼女が力を溜める過程で槍全体に緋色の火花……というか電撃?が発生する。

 それをなぞるかの様に槍が熱を持ったかの様に赤色化していく。

 そして、ピキッという小さな亀裂音と共に全体がひび割れて行った。

 槍全体に帯びていた電撃が一層激しくなって来ており、傍目から見てもそろそろ投擲する時間だと予想できる。


 そして、彼女は賞金首が密集している所ではなく、上空へ力の限り槍を投擲した。

 途中からは、森の木々に阻まれ直接見る事は出来なくなったが、気配察知で確認出来る賞金首のシルエットが全てを物語っている。

 紅い軌跡を残しつつ上空へ飛んでいった槍は、丁度賞金首共が密集している辺りでいきなり弾けた様に見える。

 ”弾けた”というのは言葉の綾などではなく、槍が砕け散り(破壊)その欠片が無防備だった賞金首プレイヤーの頭上へ流星の如く降り注いでいる。

 ある者は仰け反り、ある者は昏倒し、ある者は欠片が突き刺さっている。


「ぐがっ!?」

「ぎゃっ」

「なっ!?」


 などなど、人によって様々だが、全員とは行かないまでも見た感じ二十~三十人は巻き込まれた様だ。

 範囲内に『神盾』の一部が入ってしまっていた様だが、元々の防御力(+防御効果)と陣形技の防御効果で大したダメージになっていないっぽい。

 まぁ、六十人以上の賞金首に攻撃されて、無傷の連中だしな。


 後日、モニカさんに聞いたのだが、先ほどの奥義は、投擲した槍を犠牲にして基本攻撃力の四倍にも及ぶ無差別範囲攻撃をする技の様だ。

 はっきり言ってかなりチートくさい攻撃力なのだが、特殊能力の効果は上乗せされない上に味方を巻き込む可能性と投擲した槍が壊れるデメリットが存在する使い所の難しい技との事。


 俺達前衛組は、場の混乱が収まりきる前に一気に森を飛び出し『神盾』の前へ躍り出した。

 そして、『神盾』に近い位置にいる賞金首を各個撃破した後、後ろへ後退する。


◆◆◆


「『深緑』かっ! 助かる」


 方円の陣の中央からトリスタンさんの声が聞こえる。


「隊分割!1stパーティは右翼へ展開。

2ndパーティは左翼へ展開

3rdパーティは後方へ後退」


 先ほどまで完全防御の”方円の陣”から綺麗に隊が三分割し、俺達『深緑』の左右へ分かれる様に隊列が変わっていく。

 二つの隊の後方から後衛達がさらに分割し後方へ下がっていく。


「「陣形切替! 方円ノ陣から偃月えんげつノ陣へ」」


 右の隊を率いているトリスタンさんと左の隊を率いていたアリアナさん(サブマスター)がほぼ同時に陣形切替を使う。

 すると先ほどまで隊分割によって陣形が乱れていたのが嘘の様に綺麗な∧の形へと変化していく。

 かなり複雑の動きをしているが、慣れなのかシステム補助なのかは分らないがスムーズに陣形が変わっている。


 『深緑』は、陣形なんてないのは当たり前だが、俺達の左右を∧の形をした陣形が、賞金首集団を串刺しするかの様に先頭が中央に向きつつ準備は完了した。

 数ではまだ負けているが、防御一辺倒だったこちら側は、攻撃へと切り替わったのはかなり大きい進歩だと思う。

 まぁ、俺達が賞金首共を牽制していたから出来た訳だが……。


 俺達と『神盾』が反撃の準備が出来たその少し後に『深緑』の後衛組が、森を抜け俺達の後方へ追いつき、いつでも戦闘再開できる状態となる。


「お待たせ!」

「我らをいいように嬲ってくれたものだ……」

「「陣形技発動! 『青龍偃月せいりゅうえんげつ』」」


 トリスタンさんとアリアナさんが、同時陣形技を発動させると彼らの陣形が青いオーラに包まれながら賞金首集団へ向けて先制の突撃をした。

 陣形が龍の頭部、オーラが龍の尻尾を表している様にも見える。


 陣形の”技”として発動した『青龍偃月』は未だ混乱から収まらない賞金首共の密集地帯へと龍のあぎとを開け飲み込んでいった。

 そして、密集地点半ばでトリスタンPTとアリアナPTが巧い具合に交差し、さらに集団を飲み込んでいく。

 流石にこれで戦闘不能になる賞金首はほとんどいなかったが、混乱はより増した様にも見える。


 あまりにも見事な攻撃に俺達は戦うのを忘れて見入っていた。

 また、『青龍偃月』に巻き込まれなかった賞金首も同様で見入っている。


 そして、陣形技が終わる頃には、彼ら『神盾』は賞金首集団の後方に位置していた。

 丁度そこは賞金首集団の後衛組が目の前になる位置だ。


「「陣形切替! 偃月ノ陣から横陣おうじんへ」」


 『神盾』は、賞金首後方で真横に列を為し後退は絶対にさせない様にした。

 また、横陣は、陣形技の中で最も基本となる陣で流石に傭兵である俺でも知っている。

 陣形技で唯一陣形としての技つまり偃月の陣でいう『青龍偃月』がない陣だ。

 その代わりに個々の能力が上昇し、相手を全滅させる為に使用される。


「誰一人も逃がすなっ!」


 『神盾』が後方で戦闘を開始したのを見計らって、俺達『深緑』も戦闘を再開させた。

『神盾騎士団』魔王討伐参加人数・・・五十八名(1st二十名、2nd二十名、3rd十八名)

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