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E/O  作者: たま。
oβ・クラン
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第68話・再会

 俺が目を覚ましたのは教会ではなくどこかで見た様な小屋だった。

 視界内のゲーム内時間を確認しても、あれから二時間ほどしか経っていない事からあそこから一番近い休憩所なのだろう。


「ぁ。目が覚めたか? アキラ」


 心配そうな表情で横になっている俺を見下ろしている。


「アキラ姉さん。大丈夫ですか?」


 小屋のどこかにいたのだろう。

 俺の視界外からモニカさんが姿を現して、クロイツの様に心配した表情で俺の横に座った。


「ポーションです。飲んでください」


 モニカさんがポーションを取り出し、俺の口へ近づけて少しずつ傾ける。

 口の中に流れ込んでくるポーションの中身を確実に飲む。

 それでもHPゲージはレッドゾーンから脱せず、相変わらず視界全体が赤い。


 左に視線を向ける。

 やはり、噛み千切られた左肩はそのままだった。

 状態異常『大出血』も治まっていない。

 先ほどのポーションで回復したHPも『大出血』による継続ダメージで帳消しになる勢いだ。

 『気絶』の間、俺が死ななかったのは定期的に二人が俺の口へポーションを流し込んでいたお陰なのだろう。

 HPが回復しても体の部位欠損と状態異常である『大出血』は、ポーションの類では回復しないのだ。

 教会や法術師に治癒魔法を掛けて貰わないと治らない。


「クロイツ兄さん……」

「ああ」


 クロイツは懐から三本のポーションを取り出す。

 三つとも現段階で手に入る一番回復量の高いポーションだ。


「残り三つしかないが、HPが0になる前にこれを定期的に飲んでくれ。

教会に何としてでも送り届けるから……」


 クロイツの気遣いは嬉しい……のだが……。


「無理だよ」


 HPの減少具合から見て三本のポーションでは、正直間に合いそうにない。

 俺の記憶が確かならリトラトの街には教会がなかった。 

 王都シドレードまで徒歩四日、ずっと全力でダッシュしたとしても一日半から二日は掛かる。

 ましてや、ずっと全力ダッシュなど出来る筈もないので三日ぐらいは掛かると見た方が良い。

 となると、三本では間に合わないし、リトラトで補給しても効果の高いポーションは売っていない。

 大量に買い込みにしても限界があるし、ポーションも空腹ゲージに影響がない訳ではない。

 到着するまで飲み続けるのは物理的に無理だ。


「それに……、最後の三本なら尚更受け取れない。

自身の回復はどうするつもり?」


 まず、この霊峰グレイブルーを下山しなければならない。

 行きで倒したから帰りは出て来ないなんて道理はなく、別のMobがすでに配置されているだろう。

 俺を送り届けると言っている訳だから、どちらかが俺の抱えなければならない筈だ。

 とすると、まともに戦えるのは一人しかいない。

 折角、二人とも無傷なのにこんな事で死なれると後味が悪い。


「……クロイツ」

「なんだ?」

「……ちょっと先に王都で待ってるよ」


 大人しくデスペナを喰らっておこう。

 そっちの方が二人の生存率が高まる。

 それに恐らくだが、ジナとマティアスさんが先に教会へ行っている筈だ。

 待っているかは別として……。


「ボクの装備よろしく」


 そろそろHPが尽き様としている。

 死に戻りでは、装備をその場に残してしまうので、仲間に拾って貰う必要がある。


「ああ」

「そう言えば、ジナとマティ」


 ジナとマティアスさんの装備は回収した? と聞こうと思ったのだが先にHPが尽きてしまった様だ。

 世界の色素が無くなり視界が白黒になる。

 そして、二つの選択肢が画面中央に出た。


《その場に残り、回復を待つか》

《最後に訪れた教会で復活するか》


 当然、俺は教会へ戻るを選択するつもりだ。

 ちなみに”その場に残り回復を待つ”と言うのは、自然治癒もしくは通りすがりの法術師を待つという意味だ。

 自然治癒だと結局は、部位欠損と『大出血』は治らないし、通りすがりの法術師なんて来るかどうかも分らない。

 という事で、教会に戻るという選択肢しか俺に選ぶ余地はない。


 ポチッっとな。


◆◆◆


 暗転した視界が暖かい光で少しずつ覆われていく。

 そして、俺は目を覚ました。

 

 俺の視線の先には煌びやかなステンドグラスが飛び込んできた。

 無事、教会へ死に戻りした様だな。


「あっ、アキラ姉さん!」


 聞き覚えのある声……マティアスさんの声で完全に俺の意識は覚醒し、横たわった体を起こす。

 俺はマティアスさんを視界に捉えた後、周りを見渡しジナもいる事を確認した。

 そして、立ち上がり自分自身の装備を確認する。

 俺が身に纏っているのは、【死に装束】というくすんだ白いローブだけだった。

 防具と言うより衣装なので、防御力は0である。


「主殿」

「はは、ボクも死んでしまったよ」


 正確には死んでいないが、他のゲームでは死んだと言って良い状態だ。 

 E/Oで本当に死んでしまったら、キャラロストとなり教会で復活しないしな。

 今日一日、街中で大人しくしておけばデスペナもあまり関係がない。


 さてと、予備の装備を倉庫から取り出そう。

 教会には、銀行や宿屋・マイホームの収納庫と同様の機能を持った倉庫が用意されている。

 ただし、使えるのは死に戻り直後の一度だけだ。


 俺は倉庫から以前使っていたワンランク下の装備一式を取り出す。

 街外に出ない限りこれで十分だ。

 街中では魅せ装備と呼ばれる見た目だけの装備をした人がたくさんいる訳で、本気装備を常に装備しないといけない訳でもないのだ。


 俺達三人は準備を整え、フィラシェット王国での滞在先である宿屋兼酒場『海犬亭』へ向かう。

 教会は、王城近くにある公共施設ばかりが集まった区画に建っている。

 そこから、まずは大通りである商業区画へ向けて歩く。

『海犬亭』は、王都中央より正門に近い位置にあり、公共施設区画とは完全な逆方向だ。


◆◆◆


 しばらく、大通りを歩いていると大広場近くの反対方向が何やら騒がしい喧騒になっているのが分った。

 喧嘩か何かかと思ったが何か違う様だ。

 群集がモーゼの十戒よろしく真ん中から真っ二つに分かれていく。

 するとその中から現れたのは今までこの辺りでは見かけた事がない連中だった。

 目を凝らす必要がない程、皆ガタイが無茶苦茶良い奴らばかりだ。

 正にガチムチ(・・・・)と言った感じで何とも暑苦しい光景だ。

 そして、自身に満ち溢れた表情で、側近ラースに敗れて意気消沈状態の俺達レイドとは大違いだ。


 先頭を歩くのは、フルアーマーを着たガタイの良いヒューマの女性、妖艶で露出の高い服を着たアマゾネスの女性、ダークエルフかヴァンパイアに見える男性の計三名。

 その後には、獣人三名で、獅子族、狼犬族、鬼熊族とどれも攻撃力が高い部族ばかりでこれまたガタイ良く前の三名よりも背が高い。

 そして、その後ろにはアースガント族の三名で、飛び抜けて背が高くガタイも抜きん出ている。

 やはり、これだけ面々この辺では、余り見ない種族ばかりだ。

 これでは丸で魔王アスモデウスを倒した今話題の《ガチムチ連合》みたいだな。


 彼らとすれ違い様、先頭のガタイが良い女性と目が合う。

 あれ……?

 どこかで見た事がある様な……。


「アイ……さん?」

「アキラ……ちゃん?」

「え、え? 何でここに?」


 確かアイさんは、ガチムチ連合設立者の一人だった筈だ。

 という事は、本当にこの集団は、ガチムチ連合で間違いないのか。

 主にユーフォリア大陸で活動していた筈なので、こんな所で再会するとは思わなかった。


 初めて会った頃と雰囲気などは全く変わらないが、装備している全身甲冑の迫力が半端ない。

 恐らくランクの高い防具だろうな。

 流石にLegend級ではないだろうが、Epic級ぐらいはありそうだ。

 


「だんちょ~。お知り合いですか~?」


 アイさんの左腕に絡み付いていたアマゾネスの女性が丸で異性を魅了するかの如く表情で聞いた。

 褐色の肌で筋肉質でありながらグラマーな体、胸と腰以外は肌が露出しており防具の意味ないのではないかと思う。

 まぁ、それだけ非常に魅力的ではあるのだが。

 

「うむ。フレンドだよ。一番初めのね」

「へぇ~。というか、どこかで見た事があるよ~なぁ……」


 どこかで会ったか?

 いや、ないな。

 全く見覚えがない。


「第三回闘技会の個人の部優勝者だ。レジーナ嬢」


 色素の薄い厳つい顔をした大男がアイさんの向こうから顔を覗かせアマゾネスの女性へ説明した。


「……あ、ああ!!どこかで見たと思ったら~。ナイス、ビッツん」

「うぉっほん!人前でその呼び方は止めて貰えないだろうか?」


 厳ついおとこが、顔を赤らめていると言う異様な光景が目の前にある。

 恐らくは渾名あだななんだろう。


「初めましてお嬢さん。私の名前はブラッドレイ=ブラッドと申す。以後思い知りおきを」


 あ~、なるほどね。

 ビーツーさんと同じ様に略された訳か……。


「あたいは、レジーナ=キンニクスキー。よろしくね~」

「き、筋肉好きー?」


 聞き間違いだろうか?


「ぉ! そこに反応するとは。もしや、同郷だねぇ~?」


 どうやら聞き間違いじゃないっぽい?



「ウェーオ殿、そろそろ……」


 話が盛り上がりかけたその時、 後ろにいた獅子族の獣人がアイさんに声を掛けた。


「む? あ、そうだね」

「ふむ。我々は悪目立ちしておりましたな」

 

 アイさんとブラッドレイさんも周りを見渡し後、彼の言葉に同意した。

 俺も視線だけで周りを見渡すと群集とプレイヤーの視線が俺らに集まっていた。


 まだ話足りない様子だったレジーナさんもアイさんが同意いた事で納得した様だ。

 それに一番後方にいたアーズガント族の三人は少々イラついている様にも見える。

 この辺で話を切り上げた方が懸命だな。


「しばらく、滞在する予定だから、また機会があれば会いましょう?」

「ええ、また」


 俺達と別れた後、どこに行くのだろうと少しだけ目で追っていると、アイさん達は俺達がいた方面つまり公共施設区画へ向かっていた。

 あっちは、教会や王城以外傭兵にとってあまり縁のない区画であるのだが、彼らはどこへ向かったのだろう。

久々の死に戻り

そして――

ガチムチBBAの人、再び!

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