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E/O  作者: たま。
oβ・クラン
75/94

第66話・龍の聖域Ⅰ

 霊峰グレイブルーの山頂は、高原が広がっていた。

 と言っても、そんなに広くはなく百メートル四方といった所だ。

 周囲を見る限りMobの姿は見えない。


 街からは雲の上を見る事が出来なかったので気付かなかったが、ここに来て初めて高原の中央には巨大な樹が聳え立っているのを確認した。

 高さで言えば、東京タワー程だ。

 幹はかなり太く幅五十メートル程あるのではないかと思う。

 そして、幹の外周を階段が樹上へ向け続いている。

 階段の幅は大人三人が少し余裕を持って横に並べる程だ。

 これは広いと見るか狭いと見るかは人によるが、ここで戦闘となると狭すぎる幅だ。


 で、階段があると言う事は、樹上には人が立ち入る事が出来るという事だな。


 そして――――。


「飛び回ってるの何だと思います?」


 マティアスさんが、指差した方向つまり樹上二百メートル付近だろうか、他者の進入を阻むかの様にMobの群れが見える。

 俺達は目を細めながらMobの群れを凝視する。


「鳥?……にしては大きいな」


 と言ったものの、鳥にも大きな種類なんていくらでもいる。

 

「……龍に見えるのは気のせい?」


 俺らの所からだと若干判別が難しいが、このシルエットが鳥でないのは明白だった。


「ははは、アキラ姉さん冗談やめて下さいよ。

あれ、何頭いると思ってるんですか?」


 マティアスさんが現実逃避したいのは分る。

 俺だってあの数を龍だなんて思いたくない。


「百頭?……以上はいる様に見えるね」


 正確に数えている訳ではないが、どう見ても数十頭を軽く超えた数がいるのは分る。

 当然、マティアスさんもその筈である。

 と言うか、群れと言うのは生易しいな。

 大群と言った方がしっくりくる。


「クロイツ兄さん、あれ『追駆』で何か分らないですかね?」

「……初見だしな」


 と、言いながらもクロイツは、『追駆』を使いMobの分析にかかる。

 一度も戦った事のないMobは、分析などで分る項目が限られている。

 しばらくして、何かが分った様でMobを凝視していた視線を戻しこちらを見た。


「二つだけ分った。

一つ目は、名前で『ワイバーン・クラスター』。

二つ目は、レベルで百二十つまりカンストだ」


 やはりというべきか、ブラッドシャドウウルフと同様で名前とレベルしか分らない。

 ちなみに、E/Oでは、一人用騎乗龍として広く知れ渡っている為、龍としては小型の部類に入る。

 だからと言って、野生のワイバーンは、大人しい訳もなく気性が獰猛で人間を餌としか思っていない。


 それよりも気になる事がある。


「レベルの個体差はなし?」

「……ああ」


 ブラッディシャドウウルフもそうだったが、群れで行動しているMobのレベルが全て同じという事はそうそうない。

 自然界と同じで一頭のボスを中心に群れが形成されている筈だ。

 しかも、クロイツは無作為で数頭の飛龍を選んでいるにも関わらず、同じレベルというのは有り得るのだろうか。

 実際、あの歯切れの悪さから見てクロイツもそこが引っ掛かっている様だ。


「クラスター。俺の国では、集合・群れ・ふさという意味だ」

「つまり?」

「ただの推測で間違っていて欲しいのだが、あの百頭以上いると思われる飛龍全てが一つのMobじゃないだろうか?」

「「…………まっさか~」」


 もしくは、リンクする頭数が多いのか……。

 実際、戦ってみないと分らないな。


「どうする? 引き返す?」


 当初の目的だったレベルの底上げについてはすでに達成していると見て良い。

 このまま、引き返しても良いと俺は思っている。


「ワイバーン百匹に守られた樹上に何があるのか、興味がない訳ではないが……、

俺はアキラの意見に任せるよ」


 ご丁寧に樹上へ向けて階段があるのだから何もない訳がない。

 それよりも相変わらず主体性のないな。

 興味があるのなら俺の意見なんて無視して主張しろと言いたい。


「俺は、ワイバーン・クラスターと戦って見たいっす」


 マティアスさんの表情は、興味津々な子供の様にワクワクが止まらないといった感じだ。

 俺としては、ヘタレのマティアスさんの事だから「行くの止めましょう」とか言うのかと思っていた。

 というか、よくよく考えてみたらノルシュトレーム姉弟は、脳筋だったな。


「どっちでも良いわ。

まぁ、弟が戦いたいって言っているし、戦うに一票かな」

あるじ委任まかせる


 つまり、決定権は俺にあるという事か……。

 というか、ジナはクロイツよりも性質が悪いな。

 完全に俺へ依存している。


「ま、行ってみよっか。

勝てそうになかったらすぐ撤退する方向で」

「うっす」

「k」

「了解」

「了」


◆◆◆


 山頂の大樹の幹外周に設置された階段を俺達は黙々と登り続ける。

 下から確認していたが、道中Mobとの戦闘がない為、俺を含め全員が飽き始めていた。

 と言うより、ここに来るまでずっと戦闘戦闘の繰り返しだった為、余計にこの時間が苦痛に思えるのかも知れない。

 そして、頭上で飛んでいるワイバーンの群れが登るにつれて大きく見えて来る。

 地上からワイバーンの群れが飛んでいるエリアの丁度中間辺りに取って付けた様な簡易的に休憩所があり、現在俺達はそこで休憩している。


 休憩所を頻繁に大きな影が通り過ぎ、この先必ず遭遇するであろう戦闘に皆の緊張が手に取る様に分る。


「う~む、やはり、どのワイバーンを分析しても同じ結果だな」

「そっか」

 

 分らないのなら仕様がない。

 なら、実際に戦ってみるだけだ。


「みんな、準備は良い?」


 皆の顔を見渡すとアイコンタクトと共に頷き各々の武器を手にする。

 恐らくだが、この休憩所を出ると間もなく戦闘が開始……というか、俺達の存在がワイバーンに気付かれるだろう。

 俺達は発見される事を前提にコソコソせず堂々と階段を登る。

 互いの武器が干渉しない様に自分の間合い分を空けながら歩く。


『ギャァギャァ!』


 そして、唐突に戦闘開始の合図とばかりにワイバーンの一匹が俺達を見付け仲間に合図の咆哮を上げる。 


「チィ」


 やはり、見逃して貰えなかったな。


「ぬおりゃあああ」


 咆哮を上げたワイバーンに向けてマティアスさんは、雄たけびを上げながら大剣二刀流による先制攻撃をした。

 これでもマティアスさんの攻撃力は、深緑の中でもトップを誇る。

 彼の先制攻撃は、ワイバーンの頭部にクリティカルが入り、スタンと共に落下していく。

 大剣は、切れ味よりも破壊力・打撃に長けている。

 クリティカルが入った際の状態異常は、『出血』などではなく所謂『ピヨリ』などになっている。

 その為一時的に相手の戦力を落としたり、連携攻撃の基点となる事が多い。


 が、今回は相手が悪かった。

 落下したワイバーンと入れ替わる様にマティアスさんの死角から別のワイバーンが落下攻撃をして吹き飛ばした。

 当然、足場に余裕のない階段上なのでマティアスさんは足を踏みはずし落下していった。


「ぁ、アアアアアアアアアァァァァァァ、ああ!?」


 落下していった筈のマティアスさんの声が途中で止まる。

 何故なのか気になったが下を確認する程の余裕がなかった。

 複数のワイバーンによる波状攻撃で俺達は防御に徹するしかない状態だ。


 ワイバーンは、俺達よりも遥かに多い事を利用してのヒットアンドウェイを繰り返している。

 一頭の攻撃力は大した事がないにも関わらず、反撃を実行出来る程の隙を全く与えてくれない。



 ジナの小さな体躯が、ワイバーンの鉤爪により捕らわれ、気付いた頃には上空へ持って行かれていた。

 

「ジナ!」

「ぁ、主殿~~」


 ジナを捕獲したワイバーンに対して別のワイバーンが飛び掛る。

 つまり、俺達の頭上で餌の取り合いが始まったのだ。

 空中で三頭のワイバーンによる取り合いは、ジナのHPを少しずつ確実に減らしていく。

 このままでは、ジナは確実に戦闘不能となる。


「こんのぉぉ!!」


 モニカさんによる槍の投擲は、ジナを捕まえていたワイバーンの胴体を貫く。

 バランスを崩したワイバーンは、ジナと共に落下していった。

 落下する途中にジナを手放したが、彼女が体勢を整える前に別のワイバーンが彼女を攫って行く。

 そして、ジナを捕らえたままワイバーンの群れの中へ消えて行き、しばらくしてからジナのHPバーがゼロになるのを確認した。

 その数秒後、頭上からジナの体の一部と装備品が降って来て地上へ落下していった。

 完全に丸呑みとかではない事に少し安心する。

 丸呑みだと即死扱いでキャラがロストしてしまうからだ。


 さて、この場にいないもう一人はどうなったのだろう。

 パーティメンバー全員のHPバーが画面端にあるのだが、まだしぶとくマティアスさんが生きている。

 とは言え、ジナ同様少しずつHPが削られているのが分る。

 だが、俺達の視界にはマティアスさんの姿を確認する事が出来ない。


『看破』


 見えないのなら見える様にすれば良い。

 まだまだ百匹以上いるワイバーンのシルエットで隠れる様に、薄緑色でハイライトされたマティアスさんが俺達とは反対側の空中にいた。

 ジナ同様、餌の取り合いがワイバーンらの中で繰り広げられている。

 これは助け様がない。

 すでにHPバーはレッドゾーン、右手と左足が欠損しており『大出血』の状態異常にもなっている。


「くっそが……覚えていやが……」


 と、マティアスさんが言い残しHPバーがゼロとなる。

 そして、餌の争奪戦に勝利したワイバーンがマティアスさんを咥えながらこちらへ飛んでくる。


「チッ、やってくれんじゃない。

でも、私の弟は返して貰うよ」


 モニカさんは、同時に襲ってきた二頭のワイバーンを両手に一本ずつ持った短槍で振り払い、隙を見てマティアスさんを咥えたワイバーンに狙いを定める。


『連続投法・連双花音れんそうかのん


 モニカさんは、鍛え抜かれた左右の手から別々の槍を投げる。

 右手から放たれた槍は、ワイバーンの翼を穿ち翼膜を木っ端微塵にさせる。

 そして、左手から放たれた槍は、ワイバーン鎌首を貫き頭部が胴体から放れる。

 咥えていたワイバーンを力尽きた様でマティアスさんを口から放し落下して行く。

 当然、マティアスさんの体も地上へ落下して行った。

 不謹慎かも知れないが、ジナとマティアスさんの体が近くに落ちたので装備の回収が楽になった。


 それにしても、モニカさんの攻撃で分った事がある。

 百匹以上というとんでもない数がいるが、一匹に割り振られているHPはそんなに高くないという事だ。

 少なくとも後期習得技の一撃で倒せる。


 ま、だからと言って今現在の俺達がこのワイバーンに勝てる可能性は限りなく低いけどな。

 すでに二人が戦闘不能という現状なのだから……。

霊峰グレイブルー山頂は、ボスエリアでした。

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